稲葉浩志初の作品集「シアン」のコンセプトは茶室?アートディレクター&編集長が明かす制作裏話

2023/07/13 12:00 配信

音楽

SPBOXは当初LPレコードのジャケットサイズだった

――作品集2冊、フォトブック1冊、それを収めるSPBOXという仕様ですがその形は当初からでしょうか?

江村:元々分冊にしようとは思っていましたが、最初はそこまで仕様は固まっていなくて。

志村:提案資料を共有いただいたりする中で、LPレコードのジャケットサイズのボックスに写真集と作品集を入れるというアイデアがあったのを覚えています。音楽関連なのでLPジャケットサイズというのもいいんですけど、デザイナーとしては「もうサイズが決まっちゃってるのか、ちょっと残念だな」ってその時は思いましたね(笑)。

――フォーマットがかっちり決まってると、そこにデザインを嵌め込むという感じの作業になりますからね。

志村:そうなんですよ。でも、「大袈裟なものにはしたくない」という意向をお聞きして。

江村:「こんな感じになります」とLPレコードのジャケットサイズの束見本を作ってお見せした時に、大仰なものじゃないほうが良いというご意見をいただき、そこから別案を考えることにしました。アイデアの起点はレコードと一緒に並べてもらったら、常に目に入るところに置いてもらえるんじゃないかという点だったのですけれど、最終的に今の大きさになって非常に良くまとまったと感じています。

特装版のSPBOX。シンプルなグレーにシアン色の箔が映える

SP BOXのプロトタイプ。サイズが現在と違うほか、蓋と箱本体がつながっているなどこの段階から試行錯誤が続いた

志村:“華美じゃないもの”という先方の意向がありましたが、ビッグヒットを飛ばしている稲葉さんの作品集ですし、ありきたりなものにはしたくないなという思いはありました。編集部とオンラインで打ち合わせをしている時に、編集スタッフの方たちから稲葉さんの人柄、人格、個性、歌詞に対する考え方などを聞いて、ステージ上では華やかな方ですけど、ステージ以外は実直な方という印象を受けたので、なんとなくですけど、「茶室みたいなイメージですか?」ってそこで言ったんです。

江村:茶室! そうでしたね!

志村:茶室って過度に飾り立ててはいないけれど、そこに世界観があって凛とした美しさや強さもあり、何か感じるものがありますよね。茶室の中に入った人にも何か想像する余地を与えてくれる。そういうイメージがいいかなと思って。加えて稲葉さんのプライベートスタジオの名前が「志庵」というのも聞いて、まさに茶室みたいじゃないですか!と。その時にデザインのおおよそのイメージが決まった感じがありましたね。

江村:最初に「茶室」って聞いた時、どういう意図で言われたのか分からなくて、「え? “和”のイメージですか?」って聞いてしまいました(笑)。そうしたら、本質の部分での“茶室”のイメージということで。

志村:その打ち合わせには編集の方3人が参加されてたんですが、茶室と言った時、みなさんポカーンとされてましたよね(笑)。

江村:志村さんに説明していただいて、いろいろ合点がいきました。稲葉さんのプライベートスタジオの名前でもありますし、ソロアルバムのタイトルにもなっていましたので、『志庵』という言葉がいいなって。最初はアルファベットで“Shian”や“Sian”を想定していたんです。漢字じゃなくアルファベットにすることで、“私案”だったり“思案”だったり“試案”だったり、いろいろな意味に捉えることができるんじゃないかと。でも、編集部の中でどうもローマ字表記がしっくりこなくて。そんな時、稲葉さんから「カタカナはどうでしょうか?」とご提案をいただいて。それは本当に目から鱗でしたね。

――“言われてみれば”という感じですね。

江村:そうなんです。印刷の基本となる4色「CMYK」の「C」もシアンと言って青系の色を指すのですが、そこからタイトルロゴやキーカラーに青系の色を使うイメージが湧いて。稲葉さんの秘めた思いや熱量が僕の中では赤い炎ではなく青い炎っぽいと前から思っていたので、「これだ!」って。

志村:赤い炎よりも青い炎の方が温度が高いらしいですからね。ぴったりだと。作品のタイトルがカタカナのシアンに決まってからロゴを考えた始めたのですが、カタカナのシアンって実はデザインが意外と難しいんですよ。「シ」と「ン」が似ていますし、大きさを変えてしまうと「シァン」みたいに見えてしまいますし。

江村:悩みながらタイトルロゴは志村さんに7、8パターンぐらい作ってもらいましたよね。

【画像を見る】初出し!「シアン」ロゴのプロトタイプを一部公開(C)志村正人/KADOKAWA


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