コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、漫画家・三森みささんの『生きていくのは大変だ〜トラウマ治療編〜』より「虐待と性被害の後遺症がひどいのでトラウマ治療に行きました」をピックアップ。
本作は、作者自身の実体験を元に描かれたコミックエッセイで、性被害による壮絶なPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状がありのままに記録され話題を集めている。三森さんが6月10日に本作をTwitterにて公開したところ3.1万以上の「いいね」が寄せられ、同じような悩みを持つ読者からも反響が相次いだ。この記事では三森みささんにインタビューを行い、創作の背景についてを語ってもらった。
作者の三森みささんは20代半ばで性被害に遭ってから、何度もその記憶がフラッシュバックする後遺症を抱えていた。当時男性からいきなりキスされ股間を押し当てられて不快に感じるも、これらが犯罪にあたる行為だと知らず、訴える考えには至らなかったという。何よりも、勇気を出して打ち明けた知人男性に「ちょっと触られたぐらいでぎゃあぎゃあ言うなよ」「許してやれよ」など心無い言葉をかけられたことから、「受け流せない自分が悪い」と思い込み、無理やり忘れようとしていた。しかし“当時の記憶”自体が消えることはなく、日々浮き沈みする精神状態に悩み苦しみながら気づけば6年が経過していた。
三森さんが発症した後遺症の種類としては、自身が経験した被害と似たような出来事を見たり聞いたりすると深く感情移入してしまうことや異常な怒りを感じることのほか、男性に対しての過剰な防衛反応、「自分のせいだ」と考えてしまう極端な自己否定、悪夢による睡眠不足、現実感の喪失、そしてコントロールできない記憶のフラッシュバックなどがあったという。
後に、病院の診察を受けてこういった後遺症が“PTSD”の症状の一部であることを知りホッとするも、変わらない事実と消せない記憶の存在に絶望する三森さん。それらを抱えて生きることに耐えられず、自死までをも選択しそうになる壮絶な精神状態のなか、三森さんはなんとか“記憶を消すための治療”が必要だという考えに行き着く。
その後、内閣府による“性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター”が性犯罪被害者に必要な支援を提供していることを知り、最新の心理療法を受けたことで三森さんの症状は少しずつ改善していったのだった。自身の実体験を赤裸々に明かす中で、漫画の最後には「性被害に遭っても一生苦しむわけではないこと、いま悩んでいる皆さんにも治療法があることを知ってほしい」と綴られている。
Twitter上では「PTSDの症状がここまで酷いとは…」「読んでいて胸が苦しくなった」「衝撃を受けました」「改善して良かったと心から思う」「広まってほしい漫画」「これからこんな被害が消えますように」と多くの声が集まった。また、同じような悩みを持つ読者からは「トラウマ回復の治療法があると分かって救われました」「希望が見えた」「同じように悩んでいるのが私だけじゃないと知って勇気が出た」「回復すると知れたことに感謝」など声が寄せられ、反響を呼んでいる。
――「虐待と性被害の後遺症がひどいのでトラウマ治療に行きました」を創作したきっかけや理由があればお教えください。
作中にもあるように、自分自身がフラッシュバックに苦しんで治療先を必死に探してる間、「こんな状態で回復できるんだろうか」「これから先どうなるんだろうか」の思いでいっぱいだったからですね。何より、官庁がわかりやすく漫画とかにまとめて治療ルート教えてくれよ!!今の状態で字なんて読めないよ!!と切実に感じたからです。自分に需要があるんだから他の人も同じように困ってるだろうなと思って作ることにしました。
――本作では、“消せない記憶”に対する当時の不安定な感情が壮絶に描かれていて衝撃を受けました。本作に込めた思いがありましたら教えてください。
その当時の記憶を思い出しながら、同じように悩んでる方が「自分の気持ちの問題ではない」「自分は一人ではない」と気づいていただくためにしっかり描きました。
虐待にしろ性被害にしろ、「なぜ自分はいつまで経っても前を向けないのか」というのが、私の長い悩みでもありました。同じ経験をした多くの人からも同様の話を聞きます。恨んだり、後ろを向いててもしょうがないのは痛いほどわかってるんですよ。周りからも忘れたらとか言われちゃう。終わったことですから変えられることじゃない。わかってるのに忘れられない、飲み込まれてしまう自分を何度も責め続けてきました。
そこから抜け出すために、認知的な部分を変える努力もしました。例えば異性はみな性犯罪者ではない、だとか、人間は過去に苦しみがあっても、これからの人生の選択は自分で選ぶことができるだとか。色々学んで、実践して、確かに変えられたこともたくさんありました。この漫画の一話の段階では、恐怖で外出できないとか、男性が皆性犯罪を企んでるとか思わなくなったからです。
けれども考え方をいくら変えても、ここまで大きなフラッシュバックが出た時に「ああ、もうこれは根性だとか気持ちの問題で解決できることじゃなかったんだ」と、痛いほど思い知りましたね。後に心療内科で「気のせいでもなんでもなくPTSDの症状の一つ」として診察されてホッとしたのを覚えています。
――本作をTwitterに投稿後、3.2万を超える「いいね」が寄せられ、読者からは「もっと広まってほしい漫画」という声も多く集まりました。今回の反響について、どのように受け止めていますか?
私としては、自分の身に起きたことをそのまま漫画として表現しただけだったので、ここまで反響をいただいたことに驚きました。
そして性被害の話はTwitterで何かと攻撃をされやすい、大袈裟だとか言われる印象を持っていたのですが、意外とそういったコメントが少なくてそっちにまず驚きました(笑)。同時に、「自分も違うけど同じ症状が出てる。これがPTSDの症状だと初めて知った」と言われたり、「治療法を早く教えてほしい」と言われました。どっちのコメントにしても、何かしらの苦痛によって現れるPTSDの苦しみや実情と、その治療先は知れ渡っておらず、今も苦しんでる当事者が大量にいるのかと思うと胸が痛かったです。なおさら認知を広めなくてはならないと思いました。
――三森さんは本作以外にも『生きていくのは大変だ〜宗教三世編〜』や、『母のお酒をやめさせたい』などコミックエッセイを多く描かれています。ご自身の実体験を漫画にする作業は容易ではないことと思いますが、創作全般においてのこだわりや作品への向き合い方がありましたら教えてください。
エッセイはできるだけ正直に描くことでしょうか。もちろん公開することで自分があまりにも損を被ってしまうこと、人を傷つけることなどは非公開にしていますが、自分の感情や悩みはオープンに描くように心がけています。
私は性被害だけではなく親子関係の問題や、依存症という病気を持っていて、長い間苦しめられました。しかし色々体験してわかったのは、本当に苦しいのは問題を持つことではなく、病状に苦しむことでもなく、「こんな苦しみを抱えてるのは自分だけ」「誰も自分のことを理解してくれない」という孤独感を抱えることでした。一方で、病気であったことで治療や支援先に繋がり、人間って案外、周りに「一緒に頑張っていこうよ」って言える人がいたり、理解してくれる人間がいるだけでも苦痛が和らいでいくものだということも学びました。そういった人や環境にみんなが巡り会えればラッキーなのですが、現実はまだまだ少ないと感じています。
せめてリアルに会えずとも、赤裸々な漫画を通じて「あなたは一人ではない」と伝えたいと思っています。
――三森さんが実際の経験を漫画にするうえで特に意識している点や気をつけている点はありますか?
できるだけ「回復できた」「よくなった」というオチ、あるいは方向性にもっていけることを意識しています。逆に、それが描けない体験談は執筆していません。嘘は書けないので。それは漫画制作とは別に依存症の啓発活動をしていて学んだことですが、「しんどくて苦しいこと」だけを伝えてしまうと、いつまで経っても「かわいそうで惨めな人」「病気にかかったら、被害に遭ったら一生このままなんだ」という偏見が拭えないんだと実感したからです。そして苦しんでる話だけでは聞いてる側はこれをどうすればいいのか思いつかず、「どうしようもないんだな」ということばかりが強調されてしまう。そういった目線が当事者のただでさえ低くなってる自尊心に突き刺さって、より「どうせ私は一生苦しい」「どうせ私は変わらない」から抜け出せなくなってしまう。その考えが治療に向かうのを阻害してしまうことに気づきました。
一方で、哀れみや同情以上に「困難を乗り越えようとしている」という尊敬があった方が、より治療に向かいやすいことも知りました。そういった意識を広げるためにも、「しんどくて苦しかったけど、なんやかんやで脱出口が見えました」という話になるように制作しています。
――最後に読者の方へメッセージをお願いします。
いつも応援してくださってる方々に心よりお礼を申し上げます。みなさんの感想を励みにいつも制作させていただいております。
同じように苦しんでる方と共に回復を目指しつつ、今後とも制作していく予定です。またこの漫画は、続きを描く制作費がないので、クラウドファンディングにて資金調達中です。よろしければご協力していただけますと、嬉しく思います。
どうぞよろしくお願いいたします。
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