美大在学中から音楽活動をスタートしたシンガーソングライター・小林私が、彼自身の日常やアート・本のことから短編小説など、さまざまな「私事」をつづります。今回は過去の創作活動にまつわるエッセイです。
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スマートフォンのデータ容量はいつもパツパツ。今も、64GB中の58.14GBが埋まっている。
データを整理する前の昨晩は63.2GBだった。人には画像や動画をクラウドにでも共有すれば?と言われたが、日ごろ写真を撮ることは少ないし、弾き語りもYouTubeにアップ後は動画は消している。
では何が多いのかと言うと、アプリだった。63.2GB中の40.19GBがアプリ。
そこまでスマホゲームをやるわけでもないのに何故...と思ったら、一位は意外にもLINEだった。7.78GBも占めている。キャッシュ(よく分からないがこれは適宜消すものらしい)とかいうのは微々たる量で、単純にデータだけがやたらと重い。
色々調べてみたが、結局はトークの履歴やら内部の画像データやらを一つ一つ消していくしかないようだ。
公式アカウントからの要らないお知らせに始まり、その日限りの連絡用に作ったグループ、いつ知り合ったのかも忘れたアカウントを逐一削除していく。少し勿体ないような思いを抱えながら、デスノートの魅上ばりに削除、削除......そのなかに「cafe+ キャラ設定」というグループを見つけた。嫌な予感がする。
試しにノートを開いてみる。
オリキャラworld2
▼名前 皇 燭(スメラギ アカリ)
▼年齢 不詳(20代後半に見える)
▼身長 189㌢
▼体重 72㌔
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いったん閉じる。これは、中学生の私が「鎖神(さかみ)」という名前で、なりきりチャットをしていたときに作ったキャラクターの設定だ。「オリキャラworld2」というのは恐らく掲示板の一つだろう。にしても、皇 燭(すめらぎ あかり)とは。動悸と好奇心を天秤にかけ、もう一度中身を覗くと、なんと能力も書いてあった。
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・高みの見物と洒落込もうか(トリップ・トリップ)
絶対に攻撃が当たらない
しかし、燭も攻撃をする事が出来ない
・君子危うきに近寄らず(グッドラック)
危険を感じた場合、その場から瞬時に逃げる事が出来る
逃げた先の場所は特定不能
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高みの見物と洒落込もうか(トリップ・トリップ)!?君子危うきに近寄らず(グッドラック)!?
ちょ、ちょっと良いな...デメリットが記載してあるのもいい、こだわりを感じる。
他のキャラクターも見てみる。フォーマットにばらつきがあるのは掲示板ごとに用意されているものを使っているからだ。
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鬼人語り
【名前】 理 解(コトワリ トキ)
【性別】 男
(中略)
【備考】
武器
「棺獄(カンゴク)」
呪われた刀
元は罪人の首を斬る断頭台(ギロチン)の刃
真っ黒な刀身、金糸で装飾が施された鞘
鬼の血を沢山吸っている
「自責傀儡士(マリオネットブレイム)」
革命によって崩落したとある城の宝剣
一族の無念の呪いが込められていて、使用者の精神を蝕む
紫と赤が入り交じる禍々しい剣
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そうか~、鬼の血を沢山吸ってるか~。こっそり断頭台をギロチンと呼んでるのが良い。
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オリキャラ病院
▼名前…Diel.deathhearts(ジエル.デスハーツ)
▼年齢…23歳
▼身長…185㌢
▼体重…68㌔
▼性別…男
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ジエル・デスハーツ...こういうのもあるのか...格好良いな...
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オリキャラ擬人化カフェー
【名前】温屋 炬燵(ヌクヤ コタツ)
【性別】男
【種族】炬燵の擬人化(!?)
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自分で驚いてる。多分、猫とか狼が多かったのだろう。
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Junk Tale
【名前】Craz.raintear(クレイズ.レインティア)
【性別】女(年齢不詳 見た目は20歳程)
【性格】一見優しいお姉さん
でも少し狂っていて、悲しい人
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でも少し狂っていて、悲しい人。今思うと人間って全員そうかも。
と、こんな調子で作ったキャラクターがあと100人はいる。恐ろしい執着である。この時点で全員お腹いっぱいかと思うが、もう一つ文章を見てほしい。
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落書きと糖分で出来ている中三だったりします
あ、この作品は落書きを載せてくってだけです
因みに
まあ、
画力は残念な感じですのでお気楽にどうぞ←
初めなので抑えてますが
普段は超はいてんそんです
...あぁ、みなさん一番気になっているかと思いますが
残念な事に男ですm9(^∇^)プギャー
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これは私が中学三年生の時に絵や文章を投稿していたブログの一部である。
先日、ブログを書いていたことを突然思い出し、当時のサイトを探したら見つかった。
インターネットに何かを載せること、それは当然黒歴史というものになり得る。
日々のツイート、YouTubeの動画や配信アーカイブ、この原稿だってそう。数年後に見返して赤面必至の代物だ。
かといって、やたらと消してしまうのは勿体ないとも思う。YouTubeは元より記録として始めたものだし、今の意見と異なる自分が過去にはいたこともまた、面白がれる日が来るからだ。
当時のハンドルネームが鎖神(さかみ)であることを言えるようになったのは最近になってからだ。10年近く経ってもまだ少し、こう、体温が上がるものがある。
しかし、この恥ずかしさはあくまで当時の幼さに対しての感情であって、無かったことにしたいわけではない。過去に戻って止められるとしても、そんなことは決してしない。俺は鎖神の誕生を祝福している。
考えてもみてほしい。
「高みの見物と洒落込もうか(トリップ・トリップ)」「残念な事に男ですm9(^∇^)プギャー」「ケータイの野郎がぶっ壊れて修理してる間入れんかったお。。。(´・ω・`)」などとネットに刻み込んでいた中学生が、
「鬼灯~二藍の刻にひそむ妖」をガラケーでプレイしていたらある日突然ログイン出来なくなって電気も点けずに泣いていた中学生が、
「寿命を買い取ってもらった。一年につき、一万円で。」をPSPで読んでいた中学生が、
美大に入り、ミュージシャンになり、テレビやラジオに出たり、個展を開いたり、連載を持ったり...
なんてことが、考えられるだろうか。ビックリだ。
こんな人間が生き延びていることに。
未だ、創作とやらに身をやつしていることに。
ストレージは圧迫され続けている。
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