伊藤英明が主演を務める舞台「橋からの眺め」が9月2日(土)より東京、北九州、広島、京都にて上演される。数多くの映像作品で活躍してきた伊藤だが、舞台出演は今作で3度目、実に13年ぶりとなる。「舞台は怖い」と語る伊藤に、本作に出演を決めた理由、そして今回の挑戦を通して目指す俳優像について聞いた。「若い頃は自分のことしか考えてなかった」と振り返る彼は、50代を目前に「誰かに喜んでもらいたい」という心境の変化があったという。
――13年ぶりの舞台出演、オファーを受けた際の心境はいかがでしたか?
僕も50歳手前になり、今まで演技も独学というか、現場で学んできただけなので、改めて挑戦してみたいと思いました。ここからの10年を見据えたときに、このまま自分の持っているものやキャリアを食いつぶしていくしかないなら、舞台はすごく苦手だし、ずっと怖いんだけど、そこに挑戦することで何かが得られるんじゃないかと思って、あえて取り組んでみようと。
――怖いというのはなぜですか?
初めて出演した舞台(「MIDSUMMER CAROL ガマ王子 vs ザリガニ魔人」、2004年)の、初日の2幕、僕のせりふから始まる場面で、幕が開いた瞬間せりふが完全に飛んでしまったんです。何も思い出せなくて、ずっと「どうしたらいいんだ俺は!」って言ってました。(共演の)長谷川(京子)さんが口をあんぐり開けてた。結局台本にないことをひたすら喋ってたらせりふが戻ってきたんですけど、楽屋にはけたら皆に「今助けに行こうと思ってたんだよ!」って言われて(笑)。
それから怖くなっちゃったんですよね。萎縮したというか。舞台でこういう芝居をしてみたいなと思っても、失敗するのが怖くて…。当時は俳優というものに対してしっかり向き合えていなかったのかなと思います。その後もう一度舞台に出演したんですが(「ジャンヌ・ダルク」、2010年)、そのときもあまり楽しいとは思えなかった。よくわからないまま終わったというか…いっぱいいっぱいでした。本当に失礼な話だと思います。トレーニングが好きで稽古は楽しいんですけど、「本番は来なければいいのに」と思ってました。
でも、年齢と経験を重ねて、今の自分なら新たな挑戦ができると思って出演を決めました。やっぱり怖さはありますけど、やれるだけやりたいと思います。新人俳優みたいですね(笑)。
――伊藤さんのように映像作品にたくさん出演されていても緊張するんですね。舞台と映像での演技の違いはどんなところですか?
ドラマや映画は瞬発力が必要なのに対し、舞台は稽古と本番で積み上げて変わっていく。あと、舞台に立っているときはお客さんがとにかく気になります。「昨日はここで拍手があったけどな」とか「あそこのお客さん寝てるな」とか…(笑)。もちろんお客さんの生の反応がよければ、芝居がよくなるときもあるんですけど。
――映像だと、カメラの向こうにいる視聴者を意識して緊張することはない?
映像だと、対監督、カメラマン、共演者という意識なので、逆に緊張しなくて。舞台だと繊細に感じちゃうんですよね。
――今回挑戦するのは「セールスマンの死」などを手掛けたアメリカの劇作家、アーサー・ミラーの名作戯曲「橋からの眺め」。戯曲を読まれたとのことですが、作品の印象はいかがですか?
すごく長い時間人々に愛されている戯曲だし、愛憎劇でせりふ劇。映像でもここまで人間の感情が入り乱れる作品の経験はないので、どうなるかわからない。2ヶ月の公演期間を終えたときに自分が俳優としてどう変わっているか、期待感もあります。
――本作で演じるイタリア系アメリカ人の港湾労働者・エディは、「“男性らしさ”に固執し一家に悲劇をもたらす」主人公です。役作りはどのように行われますか?
役作りはこれからにはなるんですけど、エディが日々どういう生活をしているかを想像して、丁寧にリアルに突き詰めていかないとなと思います。厳しい生活の中で、一生懸命仕事をして、モノや家族や友人を大切にしている普通の人間が、なぜこうなってしまうのか。せりふだけじゃなく、内面から起こった感情を芝居に落とし込んでいく必要があるので、まずは稽古の中で起こった感情を大切に、演出家の方と話し合っていきたいです。
――伊藤さんは過去の出演作「海猿」などでも、ポジティブな意味で「男らしい」イメージのキャラクターを演じることが多かったと思いますが、伊藤さんの思う「男らしさ」とは何ですか?
「女々しさ」じゃないですか。結婚してみて、男って女々しいんだなと思ったんですよね。くよくよしたり、いろんなことを引きずりながら、それを隠そうとする。そもそも「女々しい」という言葉自体、女性には使わないですし。
――伊藤さんご自身、そういった虚勢を張った経験がありますか?
若い頃はありましたよ。やきもちを焼いてるのに隠したり、電話したいのにしたくないふりしたり、甘いものが好きなのに好きじゃないって言ったり…(笑)。でも、この作品もそういうところがありますよね。エディも女々しいから男らしい。「自分の中にこんな気持ちがあったんだ」と気づくことで、転がり始めて止められなくなっていく。そういう感情の面から役を作っていくのもいいのかなと思います。
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