卓越したCG技術で描き出した美しい海の中。ロードムービー仕立てのマーリンとドリーの大冒険には、海あるいはその周辺に棲むものたちがユーモアたっぷりに登場する。例えば、魚を捕食する怖い存在のサメのブルースが、悪いイメージを変えようと「魚は友だち、エサじゃない」と誓いを立てているのにクスっとする。とはいえ、血のにおいを嗅ぐと凶暴化してしまうという生態系はきちんと見せる。独特のせりふ回しで大人気キャラとなったウミガメ・クラッシュのほか、チョウチンアンコウ、クジラ、ペリカンなど、次々に出会いが訪れて飽きない。
一方、さらわれてしまったニモも、水槽の中で絆を深める。ニモに“シャークベイト(サメのエサ)”というあだ名を付けたリーダー格のツノダシ・ギルや、水槽の底にある宝箱から出る泡に夢中なキイロハギのバブルスなど、各々の個性が際立っている。
キャラクターのかわいらしさや冒険のワクワク、ドキドキする感じに子どもたちが喜ぶ。同時に、大人ものめり込むのは、ディズニー&ピクサーのストーリーテリングのうまさにある。
マーリンとドリーの大冒険に、脱出を図るニモの奮闘も挟み込み、笑いあり、恐怖ありの筋運び。その中に人間にとって大切なことをキャラクターたちのせて描き、自然に感情移入することができる。
個性際立つキャラクターという肉付けは、伏線にもなり、クライマックスへと盛り上げる。主たるのが心配性のマーリンだ。妻のコーラルと400個以上の卵をどう猛な魚・バラクーダに襲われ、たった1匹残った卵=ニモを大切に育てたマーリン。ニモは左のヒレが小さいという生まれながらのハンデで長距離の泳ぎも苦手。そんなニモを過保護すぎるほどに見守るマーリンは、自身もサンゴ礁から出たことないのだが、ニモのために意を決し大海原に出る。息子への大きな愛にほかならない。そして大冒険での多くの出会いがマーリンを強くしていく。
ニモを心配し過ぎるマーリンに、ドリーは「子どもに何も起きないようにしたら子どもは何もできないわ」と言う。クラッシュが「自分でなんとかするさ」と甘やかすことなく、でも温かい目で子育てをしていることに驚くマーリン。片やニモは、水槽に到着早々ピンチになったとき、ギルから「やるだけやってみろ」と促され、それはその後の力になる。
そんな言葉や姿は、多くの視聴者の心を捉える。それらは大人になるほどに、より深くうなずけるように。劇場公開から20年、大人になった視聴者に改めて感動をもたらすという、視点が変わっても感情を揺さぶられる物語の大きな力があるのだ。
今回の放送では、SNSに「何回見ても驚くほど面白い」「大人になってから観ると違った視点で面白かった」「大人になると分かることがある」「クラッシュの子育て論いいよなぁ」「ギル推し」「ニモを見て涙腺崩壊」「泣いた」といった声が寄せられた。
「ファインディング・ニモ」はディズニープラスで配信中。
◆文=ザテレビジョンシネマ部
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