元タカラジェンヌ珠城りょう 華麗に駆け抜けた宝塚時代とこれから

2023/08/18 18:30 配信

芸能一般 コラム

珠城りょう出演「マヌエラ」が衛星劇場で放送決定撮影/加藤幸広

宝塚歌劇団の世界では“男役10年”という言葉がある。男役としての歌、ダンス、演技、所作や立ち振る舞いなどを身につけるためには最低でも10年かかるとされているためだ。かつて月組トップスターを務め、現在は俳優・歌手として活躍する珠城りょうは、9年目という異例の早さでトップスターの座に輝いた。今回はスピード出世を果たし、平成から令和にかけての宝塚の伝説となった珠城のタカラジェンヌとしての魅力を振り返る。

最後のチャンスで宝塚音楽学校に入学、早くから頭角を現した下積み時代


水泳、バスケット、ハンドボールとスポーツに熱中していた珠城は、宝塚観劇バスツアーに参加し、初めて観劇したその日に「私もあのステージに立ちたい」と宝塚音楽学校の受験を決意。身長172センチという恵まれた体格に抜群の運動神経を誇ったが、“東の東大、西の宝塚”と称される音楽学校への道のりは決して平坦ではなく、「これが最後」と決めていた3度目でようやく合格した。94期生として入学し、2008年に月組公演「ME AND MY GIRL」で初舞台を踏む。高身長と長い手足を活かしたダイナミックなダンス、ステージに上がれば一際目を引く存在感で早くから注目を浴びていた。

トップスターの登竜門としてしぱしば挙げられるのが、“入団7年目までの団員で構成される新人公演”での主演、そして宝塚バウホールと東京や神奈川にある外部の劇場でそれぞれ主演を務めること。珠城は入団3年目の2010年に大作「THE SCARLET PIMPERNEL(スカーレット ピンパーネル)」新人公演の主演に抜擢され、2013年に「月雲の皇子」でバウホール公演で木梨軽皇子役を好演。さらに2015年には「Bandito-義賊 サルヴァトーレ・ジュリアーノ-」で東京での外部劇場公演初主演と、トップスターへの階段を順調に上って行った。そして2016年9月、相手役に愛希れいかを迎えて月組トップスターに。翌年に宝塚大劇場お披露目公演となる「グランドホテル/カルーセル輪舞曲」が幕を開けた。

大作の主人公を堂々と演じ切った“武器ジェンヌ”

珠城りょう撮影/加藤幸広


珠城が近年のトップスターの中でも違う輝きを放ったのは、前述したようなスピード出世だけが理由ではない。宝塚トップスターに要求される、歌、ダンス、ステージ上を支配し、他団員を引っ張るようなオーラに加えて、温かみのある演技、そして“武器ジェンヌ”と呼ばれた珠城にしか成し得ない強烈な個性があったからだ。

宝塚の魅力は、なんといっても非日常の世界に没入できる華やかな演出の数々が隅々まで施された舞台。その中には日本刀や洋剣、拳銃、あるいは素手での戦闘アクションシーンが見ものになる作品もある。先述したように高身長と運動神経に恵まれた珠城は、特にアクションシーンのリアリティーと立ち回りに定評があり、「All for One~ダルタニアンと太陽王~」などの作品で存分に発揮された。

その一方で、「雨に唄えば」のドック・ロックウッド役で魅せた軽妙な歌とダンス、「エリザベート-愛と死の輪舞(ロンド)-」のトート役では彼女らしい解釈で客席を虜にした妖艶で切ない演技との振り幅の広さも、数多くのファンに慕われた理由の1つだろう。

珠城りょう 撮影/加藤幸広