コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、茜田千さんの『さらば、佳き日』をピックアップ。
ある秘密を抱えながら新婚夫婦として生活する男女の切ない愛の物語を描いた本作。2015年に「COMIC it」にて連載をスタートし、「『このマンガがすごい!2017』オンナ編」にランクインされたことでさらなる注目を集めた。また、2023年6月にはテレビ東京系にて同タイトルでの実写ドラマ化(全8話)が実現。W主演を務めた山下美月と鈴木仁が互いに複雑な感情を抱きながらすれ違う男女を演じたことでも話題となり、二人の切ない愛の行方にSNS上でも大きな反響を呼んだ。この記事では作者の茜田千さんにインタビューを行い、創作の裏側やこだわり、実写ドラマ化への想いについてを語ってもらった。
ある地方都市に新婚夫婦として引っ越してきた、広瀬桂一と広瀬晃。周りから見てもごく平凡で仲睦まじい様子の桂一と晃は、新たな地で穏やかな日常をスタートさせる。しかし二人は、実の兄妹であるという誰にも言えない大きな秘密を抱えているのだった。
妹の晃は引っ越し後、近くの保育園に保育士として勤務していた。そこで、兄と同じ名前の園児・桂一と出会う。すぐ女の子を泣かせたりする“ワルガキ”な桂一に最初は反抗されていたものの、徐々に心を開かれて懐かれる晃。「アキラ」「桂ちゃん」と呼び合い一緒に遊んでいるなかで、晃は幼い日の兄との思い出を振り返るようになる。
一方、晃の3歳年上の兄である桂一は、絵本の出版社で編集者として働きながら、母から毎日掛かってくる電話を無視し続けていた。しかし昼夜問わず掛かってくるため、仕方なく電話に出る桂一。すると母から「晃も一緒にいるの?」「恥を知りなさい」「あの子は早く結婚させて子供産んで家庭持たせないとダメなの」と罵られ…。
実の兄妹という越えられない壁に、互いの愛をもって向き合う姿が読者の心を締め付ける本作。桂一と晃だけでなく、親や友達、職場や近所の人たちなど、二人を取り巻くさまざまな人間関係をも描いたヒューマンラブストーリーとなっている。SNS上では「すごく感情を揺さぶられる」「あまりにも切なすぎる」「なんとも惹き込まれた」「丁寧に積み重ねられたエピソードに感情移入する」「二人が幸せになって欲しいと願ってやまない」など多くの声が寄せられ反響を呼んでいる。
――『さらば、佳き日』を描こうと思われたきっかけや理由があればお教えください。
さらば~は元々読み切り作品として考えていた話で、きっかけはとあるネットの投稿で「兄妹で暮らしているが名字が同じなので周囲からは夫婦と思われてる」というのを見かけたことです。
そこから第一話のストーリーを考え、いざ描こうという段で連載作品としてのオファーを頂き続きものとしての構想を練ることになりました。
――兄・広瀬桂一と妹・広瀬晃、それぞれのキャラクターや設定はどのように生み出されたのでしょうか?
見た目は大人しいけど芯が強くて男前な妹が描きたくて、先に晃のキャラクターが出来ました。それと対比する形にしようと、人にも自分にも優しいヘタレな兄貴の桂一が生まれました。
――6月から本作を原作としたドラマも放送され、SNS上でも大きな話題を集めています。実写化をうけての茜田千さんの率直なご感想をお聞かせください。
正直に言うと、とても不安でした。実写化がどうという話ではなく、作品の内容自体受け入れられない方もいるのではないか、どう思われるのか…という不安です。
勿論どんな作品でも誰一人不快にさせない、傷付けないというのは不可能に近いと思います。ですが今回実写化にあたってはセンセーショナルな撮り方はしない、作品の世界観を大事にしますと言って頂き、実際にじっくりと落ち着いた雰囲気のドラマを作って頂いたおかげで、思っていたほど反感を招くことはなかったように思います。
なにより、役者さんのファンの方があたたかく見守ってくださったことが個人的には一番安心しました。
――茜田さんにとって本作の中で特に思い入れのあるシーンやセリフはありますか?
一番思い入れがあるのは、やはり第一話です。言うなれば物語の最終回が第一話でもあるので、紆余曲折あってたどり着いた答えが一番最初に描いた二人の姿になるようストーリーを考える必要があったので、常に一話を目指して描いていました。
――本作では、シーンごとに漂う“場の空気”までをも感じることができる登場人物たちの繊細な表情描写も印象的でした。作画の際にこだわった点や「ここを見てほしい」というポイントがありましたらお教えください。
キャラの表情については、特に晃の表情に気を付けていました。あまり感情を表に出さないいつも冷静な子なので、嘘をつくときの笑顔とは違う喜びの表情や、涙を流すシーンなどは気を付けて描いていました。
あと作画の上では、表紙も含めて季節感を感じられるよう気を配っていました。時間の流れを感じられる方がリアリティが出ると思ったので。
――茜田さんが本作に込めたテーマや想い、物語を最後まで創り上げるうえで特に意識した点がありましたらお教えください。
「佳き日」に背を向けて生きる二人を描きたかったのですが、私自身には異性の兄弟もいないですし想像することしかできないので、ずっと手探り状態で進めていました。
それこそ何が正解か分からないので最後まで悩みながら描いていましたが、自分が晃の立場だったらどうするか、桂一の立場だったら…とこの子達の気持ちに寄り添うことを心がけていました。
――最後に読者やファンの方をはじめ、これから本作を読むという方へメッセージをお願いします。
『さらば、佳き日』は最初に申し上げた通り読み切り作品として考えていた話でした。それを連載作品としてここまで続ける事ができたのは、ちゃんと納得いく形で終わらせたいという想いとそれを許してくれた読者の方がいたからです。改めて読み続けてくれた読者の方々に心から感謝申し上げます。
そしてドラマをきっかけに本を手に取ってくださる方がいるのでしたら、実写とはまた少し違う道のりを楽しんで頂けたら幸いです。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
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