ここまでの話は、3年ぶりに現れたシンゴから離れ、“街”の住人である、たんばさん(ベンガル)の家に来て将棋をしていたタツヤが半助に語るという体裁で、回想シーンと共に描かれている。
そして“いま”の時間軸で、タツヤは母や妹弟たちと引っ越すために内緒で貯金していることを打ち明けた。たんばさんは、大家の幸兵衛が誰彼構わず小言を言って回るという古典落語の「小言幸兵衛」話を持ち出しながら、小言を言い続けているタツヤに、貯金の目的は果たして母にとって本当に幸せなことなのだろうかと問い掛けた。
それが心に響き、母にとっては兄もかわいい息子で、自分がエゴイストだったのではないかと考えたタツヤ。貯金は兄に渡そうと思い直した矢先、シンゴが刺されて病院に運ばれたという。慌てて病院に駆け付けたタツヤは、意識不明のシンゴが治療を受けている中、所持品に自分の通帳があるのを見つけた。
ぼうぜんとするタツヤが、あとからやってきた母に問うと「あんたは優しくない」と言い放った。「兄さんが困っているのに助けもしない、家族より貯金が大事なんでしょう?」。
母にとっては、金の無心に来ても、そのたびに優しい言葉をかけてくれるシンゴが「親おもい」だった。「母さんが疲れたって言ったら、俺も疲れてるって。そういうんじゃないんだよ!母さん、そんな言葉が聞きたいんじゃないの!」という母の言葉は確かに考えさせられるものである。ただ、タツヤがずっとそばで助けていたことは葬り去られるものだろうか。
今作でも仲野の泣きの演技に心打たれた。彼は秀逸な感情表現で見る者の心を揺さぶる。特に、泣きの演技のすごさには定評があるといっていい。2022年にディズニープラスで配信された「拾われた男」や「コントが始まる」(2021年、日本テレビ系)などで、泣きの演技を見せるたびSNSで話題になるほどだ。
仲野の演技が拍車をかけて、ヘビーな物語に感情移入させる。母の思いを聞きながら、涙が目にたまる。ショックから自分の思いを口にすることはできない。静かに涙をこぼし、目を伏せたタツヤが「あぁ、そうかぁ」とつぶやいた。「銀を引いて…桂馬を叩けば良かったんだ…」と続く。たんばさんとの将棋で負けた理由を思い返しているようだ。
しかし「そっかそっか、ちくしょう」という言葉と共にため息が漏れ涙が止まらないのは、将棋への思いからなのだろうか…。
なんて静かに感情を表すのだろう。触れたら壊れてしまいそうな、タツヤの心が見て取れるようだった。
物語の最後に、宮藤がオリジナルで付け加えた、タツヤが半助やオカベ、妹弟と鍋を囲んで笑顔を取り戻したシーンが救いだ。
SNSには仲野の演技への称賛が集まっている。その演技で深い余韻を残す第2話となった。
◆文=ザテレビジョンドラマ部
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