2022年、ドラマ「やんごとなき一族」(フジテレビ系)の演技で話題となり、その後も連続ドラマや映画で存在感を発揮している松本若菜。今年2月には自身初のフォトエッセイ「松の素」を上梓した。現在、ドラマ「18/40~ふたりなら夢も恋も~」(TBS系)にも出演中の松本が日々何を感じ、思うかを語る本連載。今回は、「松本若菜が一番怖いこと」。自分が納得できる演技を追い求める松本が考えていることとは?
ある時、姉がつぶやきました。「幽霊より人間のほうが怖いんだから……!」。さて、姉の身に何が起こったのか……、という話は置いといて。9月1日に放送されるドラマ「にんげんこわい2」(WOWOW)の第4話「鰍沢(かじかざわ)」は、まさに姉のことば通り、幽霊よりも怖い人間の姿を描いた作品です。私が演じているお熊という女性が、まぁ怖い人なのですが、おもしろいことに映像はまったくおどろおどろしくないんですよ。怖くするならいかようにも撮れるでしょうし、見せ方もあると思うんですが、あえてそうしていないというか。登場人物たちの心の内は、セリフでも説明されていない。なのに怖い。そこが演じていておもしろかったし、完成した映像にも引き込まれました。みなさまも、夏の終わりに怖い話はいかがでしょうか?
ということで、今回は私が「怖い」と思うことについてお話しようかと。あらためて何が怖いかなと考えてみたのですが、思いついたのは、「いい人が怒ったとき」。ものすごく怖くないですか? いい人であればあるほど、怒ったときはめちゃくちゃ怖い。そんな場面には、できれば遭遇したくないものです。
お芝居に対して評価されることも、正直いって怖いです。お芝居をする楽しさはもちろんあるけれど、やっぱり怖いし不安だし。だけど自分の仕事に納得できていれば、その自信が砦になって私を守ってくれるような気がしているんです。
自分が納得できるお芝居がどういうものなのかと聞かれると、ことばにするのは難しいのですが……。台本を読み、「こんなふうにやってみよう」と準備したものが現場ですべて出せたとき、ではないんですよね。もちろん引出しはたくさんつくって行くし、お芝居の段取りも頭に入っています。けれどもそういったことをあれこれ考えなくても、すっとことばが出て、すっと体が動いていて、みたいな瞬間があって。そういうとき、私は自分にOKが出せるんです。そこでもし監督に、「もう1回やってみよう」といわれたら、一瞬「ありゃ?」って思うけど(笑)、監督は作品という料理をつくる、いわばシェフです。私は材料の一つとして、煮込まれようが焼かれようが、調理されるのみ。一度自分にOKを出せているから、あとは監督が求めるものをプラスして、肉付けしていけばいいんだなと思えるんです。逆に、自分が納得できるお芝居ができていなければ、いくら監督にOKをもらえても、ずーっと「あれで大丈夫だったかな……」と考えてしまいますね。
私のお芝居に対して、みんながみんな100点をくれるわけはないし、5点の人もいれば、マイナス10点の人もいるはずです。でも自分が納得できていれば、そういう中でも「大丈夫。私はがんばった!」と思える。お芝居に正解はないけれど、これからも自分が納得できるものを常に追い求めていきたいと思いますし、それは役者として最低限のマナーなのかなとも思っています。
取材・文=恩田貴子
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