平野綾「オファーを頂いてもあえて控えていた」2.5次元への葛藤と、デビュー25年目の初挑戦

マキマがまとう、場を支配する超然とした雰囲気

平野綾撮影=梁瀬玉実


――2.5次元は一般的な舞台と異なり、まずキャラクター再現が前提にありますが、マキマについてのイメージや、どのように役作りを練られているかを教えてください。

まずスーツが新鮮すぎて(笑)。私、現代劇をやる機会が少なくて、圧倒的にドレス衣裳が多いんです。なので、衣裳合わせのときはちょっとソワソワしました。ドレスだと布の動きや広がりを駆使した所作を考えますが、今回はシンプルに身ひとつですから。とは言えロングコートを着ているので、それはマキマの格好良さを引き出す武器になると思います。

役作りについては原作、アニメで大事だと思う部分はいくつもあって、そこはそのまま活かすべきだと考えています。ただ、松崎さんからは、私が作るマキマでいいですというお話をいただいています。全てをコピーするような再現にはこだわらず、自分から生まれたものを重視して大丈夫ですと。

――冒頭ではアニメキャストへのリスペクトを話していただきました。そことのバランスはどうお考えですか?

めちゃくちゃアニメをリピートしています。台詞の1つ1つ、どういうトーンで発していたのかを頭に叩き込むくらいに。私も経験がありますが、原作からのアニメ化は大変なプレッシャーなんですよ。しかもあれだけの大作ですから、相当大変な苦労をしてマキマを作られたと思います。そこにしっかりとリスペクトを持ち、アニメのオリジナルキャストさんが作られたものを守りながら新しいマキマを作っていくことを考えています。

――では、どんな部分にマキマの特徴を見つけていますか?

マキマは、出てきた瞬間に場の空気が変わる存在。彼女がひと言発すると、魔法にかけられたように周囲の空気がガラッと変わるんですよね。原作、アニメともに練りに練って作られたキャラクターだと思いますし、あの超然とした雰囲気は必ずまとわなければいけないと考えています。それは台詞だけでなく、視線や指先ひとつまでという意識で。

2.5次元は世界に発信していくべき文化


――舞台、ミュージカルで培った経験はどう還元されそうですか?

“そこにいる”という存在感でしょうか。表現の仕方は色々ありますが、すごく簡単にいうと、一瞬でオーラを全開にするというような。その役者が姿を現しただけで緊張が張り詰め、鳥肌が立つ。所作や台詞の温度で場を支配する殺気に近い威圧感。そういった表現は舞台、ミュージカルで磨いてきたものなので、それこそ今回のマキマに活かせる部分だと思います。

――声優業が生かされる点についてはどうでしょうか?

声優は、すでにある絵に対してどうアジャストさせていくかが大切なので、お芝居のエモーショナルな部分はもちろんですが、まず技術的な面が大きく問われます。そういった点では2.5次元との親和性は高く、「ここはこういう音で、こういう台詞の言い回しで」というディレクションに対してアジャストさせる技術は備わっているという自信はあります。

――テレビとは違い、演劇は能動的に観に行く方でないと足を運ばない。アニメは好きでも舞台は敷居が高いと感じている方は多くいると思います。そういった層に向けて伝えたいことはありますか。

それでいうと、今回私は大役を担っていると思っていて、普段アニメしか観ていないという層、舞台、ミュージカルは観るけど2.5次元は未体験という両方の層の方を引っ張ってきたいという思いがあります。2.5次元は世界に通用する新しい文化だと思っていて、それこそ国を跨いだ発信ができるといいと思います。日本が独自に作り出したこのジャンルをこれからもっと大きく育てていくべきだし、その1作品に参加できたのは大変光栄です。

平野綾撮影=梁瀬玉実


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