アニメーション版の87分から実写版は135分となったことで、展開はほぼ同じでもシーンの追加や新たな一面を見せるシーンで物語がより深まっている。
アリエルとエリックの恋は、アニメーション版では、ハンサム、美女&美声に引かれるという、互いに一目惚れから始まる。それはおとぎ話としてロマンティックなのだが、実写版ではより恋路に共感できるものに。
ある国の王子であるエリックは、亡き国王の実子ではないという新設定にされ、次期国王になる立場として、外の世界を回って見聞を広め、国を成長させるリーダーになりたいと願っている。これにより、2人は広い世界を知りたいと葛藤する思いを抱えたもの同士だということ。また、アリエルは沈没船から人間界のものをコレクションし、エリックは航海で出向いた国々のものをコレクションしているという、似た者同士でもある。そうした2人が共鳴するかのように恋に落ちるのはリアルさが増す。
そして、エリックの国の民が集まる街に繰り出し、楽しくときめくひとときを過ごすのも、一目惚れから心を近づけていくことに説得力をもたせる。より深く、引かれ合う様子を映し出していく。
そんな中、実写版アースラはアリエルに対し、3日後の日没までに愛のキスをすれば永遠の人間でいられるというルールに、ひそかにキスする条件を忘れる呪文を加えた。美しい声を奪い、意思疎通の難しさを乗り越えるだけでなく、さらなる障壁が恋の行方を盛り上げる。
人間は自然の脅威を引き起こす海の神がいる世界を、海で生きる者たちは大切なすみかを汚す脅威のある人間の世界を怖がり、互いを理解しようともしない。アリエルとエリックは、そんな2つの世界をつなぐ希望でもある。
冒頭に引用されている、童話「人魚姫」の作者アンデルセンの「人魚には涙がない。だから余計につらかった」という言葉。アリエルが切なく、つらい状況を、強い気持ちで乗り越えようとした先に見つけるものは何か。
その答えは、ラストでつづられる。単なる結ばれてハッピーエンドのラブストーリーではなく、違うものを認める、調和することも目指した多様性を踏まえた世界での新しいエンディング。現代に実写でよみがえった価値が感じられるはずだ。
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◆文=ザテレビジョンシネマ部
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