2.5次元舞台でも活躍するインティマシー・コーディネーター 観客も安心して観られる作品作りのために

観客の「これって大丈夫?」をなくす


――2.5次元作品ならではの特徴として、「原作の再現度」が重要視されるという点があると思うのですが、現場でそれによる難しさを感じたことはありませんでしたか?

特になかったですね。原作に忠実にやることは基本ではありますが、その中で「ここはこうしましょう」という変更点はいくつか受け入れていただいています。たとえば丈の短い衣裳で高い場所に立つと、客席から服の中が見えてしまいます。出演者自身がそういった部分を見せたくないというのはもちろんのこと、同時にお客様が「見えていいのかな?」と心配になって現実に引き戻され、お芝居に集中できないと思うんです。衣裳がセクシーに見えるとか、かわいいというのは問題ないのですが、お客様に「これって大丈夫?」と思わせないように、塩梅を皆で話し合って直していきました。

――確かに、舞台は目の前かつ生で演じられるからこそ、観客が不安になる可能性がありますね。

その通りです。今作に関しては、刺激的なシーンはありますが、それは出演者さんご本人と話し合った上で、「これなら大丈夫」という範疇なので、安心して観ていただけるかと思います。

――観客としても助かるところがあると思います。

この仕事に就いて、スタッフ・出演者の皆さんをサポートするだけでなく、お客様からも「インティマシー・コーディネーターが入っていることで安心して観られる」という声をこんなに頂けるとは思っていませんでした。私自身舞台や映像が好きで、自分もお客さんの立場になることが多いので、安心して観られることはすごく大切だなと改めて思いました。

「チェンソーマン」 ザ・ステージ舞台写真(C)藤本タツキ/集英社・「チェンソーマン」ザ・ステージ製作委員会

調整役となることが多い仕事のコツとは


――映像や舞台の制作現場は、監督や演出家と出演者に権威勾配が生じ、性的な演出にノーと言えないような経緯が生じがちと聞きます。一方で、インティマシー・コーディネーターは日本にまだ2名しかいないお仕事で、全ての現場に立ち会えるわけではないですよね。インティマシー・コーディネーターが立ち会えない現場で、最低限作り手が心がけるべきことはどんなことでしょうか?

監督や演出家と出演者の間にパワーバランスが生じてしまう事実はどうしても変えられないので、意識的に相手の立場に立って想像することがとても大事だと思います。出演者さんは単にパワーバランスがあるからノーと言えないというだけでなく、作品をよくするためには自分がこれをやったほうがいいのかな…という葛藤があると思うんです。第三者が入らないと本当の気持ちを言いづらいケースがあるので、強い立場にいる人はそこまで考える必要があると感じます。

――インティマシー・コーディネーターは、監督や演出家と出演者の間に立って調整する機会が多いお仕事かと思います。調整において浅田さんが心がけていることは何ですか?

(監督や演出家と出演者の)両者からきちんと信頼を得られるよう、公平に接します。どちらかに偏っていると思われるのはよくないので。インティマシー・コーディネーターは出演者の尊厳を守る役目があるため、出演者に寄った存在だと思われがちですが、私がこの仕事をやっているのは、あくまでもいい作品を作りたいからこそなので、なるべく中立の立場でいるようにしています。それから私自身が、インティマシー・シーンにおける豊富な知識のレパートリーを持って、状況に応じて様々な提案ができるようにすること。

「チェンソーマン」 ザ・ステージ舞台写真(C)藤本タツキ/集英社・「チェンソーマン」ザ・ステージ製作委員会