自分にとっての“あたたかい場所”の大切さを考えざるを得ない『スイート・マイホーム』/佐藤日向の#砂糖図書館

2023/09/30 20:00 配信

アニメ 連載

自分にとっての“あたたかい場所”について考えたくなる『スイート・マイホーム』について綴った佐藤日向※提供写真

声優としてTVアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』などに出演、さらに映像作品や舞台俳優としても幅広く活躍する佐藤日向さん。お芝居や歌の表現とストイックに向き合う彼女を支えているのは、たくさんの本から受け取ってきた言葉の力。「佐藤日向の#砂糖図書館」が、新たな本との出会いをお届けします。

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あなたにとっての家は、落ち着く場所だろうか?自分の部屋、もしくは一人暮らしをし始めるとそこが自分だけの城のような感覚になる。
だが、そこは本当に安全なのだろうか。

今回紹介するのは神津凛子さんの「スイート・マイホーム」という作品だ。
「イヤミス」(※読後、イヤな気持ちになるミステリーのこと)を超えた「オゾミス(おぞましいミステリー)」と謳われていた本作。気になり手を取ってみたが半分を読んだ時点でかなり苦しかった。
イヤミスの段階で「もうやめて…」という気持ちになるのにラストの1ページでは、序盤との温度差にまさにおぞましいという言葉がぴったりなほど新たなジャンルのミステリー体験をした気分だ。

本作のキーワードになるのは"あたたかい家"だ。あたたかい家と聞くと家族や物理的な家のあたたかさ、床暖房を思い浮かべたり、人それぞれだと思う。
「スイート・マイホーム」では様々な形で"あたたかい"のに"あたたかくない"家が表現されていて自分の居場所について考えさせられた。

私にとっての家族は居なくてはならない存在で、とても大切な、あたたかい居場所だ。だがそれと同時に最近はどこまで自分の話をしてもいいのか分からなくなっている。今年、25歳になるんだからいつまでもなんでも話してはいけないのではないかと思う反面、いくつになっても全部話していいのではないかと甘えてしまう自分もいる。

仮に自分で話すことに制限をかけてしまったらこれから私は誰に話せばいいのだろうか。
そんな制限をかけたら私のあたたかい家はどこへ行ってしまうんだろうか。こんなことを繰り返し考えてしまう。家に帰ってきた時にホッとしてもいいのか、本当にここは私にとってのスイートマイホームと呼べる場所なのか。そんな風に思わず考えてしまうくらい最初から最後まで救いようのないストーリーが続いている。

2023年は年始からあれ?と感じるほど様子のおかしい年だったが、上半期だけのはずと言い聞かせ9月も終わり頃になってようやく「今年も我慢と忍耐の年なんだよ、日向」と言い聞かせるしかないのだなと諦めがつき始めた。

せめて家だけでも安心のできる居場所になるよう自分のためにしてあげたい。
たった338ページだけでジワジワと絶望していくのが読みながら感じ、なんだか家から出て少し遠出したくなるような本作。

オゾミスの扉をこれを機に開けてみてほしい。

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