dream in dream/連載:小林私「私事ですが、」

2023/10/14 20:00 配信

音楽 コラム 連載

dream in dream※本人提供画像

美大在学中から音楽活動をスタートしたシンガーソングライター・小林私が、彼自身の日常やアート・本のことから短編小説など、さまざまな「私事」をつづります。今回は原稿執筆についての苦労を綴ったエッセイです。
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もう思いつかない。何にも書くことがない。仕事以外の記憶があまりないし、仕事については書くことがない。この仕事のほとんどがアウトプット、アウトプット、アウトプット...歯磨き粉のチューブを強く絞って、もう出ないか、流石に、いや寝かせて定規かなんかでぐ~っと押し出して...それはこないだやった、いや待て、ちょっとだけ蓋に残ってるぞ!...固まってら。

おおよそ人生にテーマなどはなく、内なる使命感のようなものをちんけな矜持として抱え、詭弁とその場しのぎによって構成されたコミュニケーションを重ねる。毎度〆切期日に「なんか出ろ...なんか出ろ...!」と考えあぐねた先で日々の行動を今更客観視しては理由を後付けする姑息な手段をとる。初めからそうであるならば、こうはなっていないというのに。

何かをしながら何かについて考えることはあまり得意ではない。出来るとすれば頭の片隅に置いておいて、思い出しては軽微なストレスを溜め続け、それに嫌気がさしたときに渋々取り掛かれるようにすることくらいだ。

今しがたもそういった思いで...これも後付けであろう。ただただ怠け切った脳の消極的選択として、俺はベッドに横になっていた。

とはいえ考える気はあるのだ。本当にどうでも良くなっていたらむしろ気合を入れて遊んでいられる。適当にインストールした広告のゲームやら、参考文献の無さそうなゆっくり解説やらを見てしまうのは、これはサボりではなく、いや事実としてサボりではあるのだが、精神的にサボりではないのだ。なにせ面白くない。遊びやサボりというのは俺が楽しんで初めてそうなる。体調が万全として、1日ディズニーランドに行っていたらサボりだろう。同じ条件下で1日広告のゲームをしていました。どちらにせよ原稿が上がらないのなら、どちらがよりサボっていると言えるだろうか...この例えは違うな。全然、同じくらいサボっている。

とにかく俺はベッドに入った。正確には横になっただけだ。布団はかけていない。布団をかけてしまったらなんか寝るみたいで、サボりっぽい。断言しよう、布団はかけていない。

しかも本当に考える気があるので、スマホもいじっていない。ひたすら考えている。考えているというか、私の場合、どういう文章にしようか、とかはあまり重要ではない。真に困るのはいつだってテーマだ。支持体やメディウムがなんであれ、テーマさえ伴っていれば、反対にどれだけ環境が整っていようが確固たるテーマが己を立たせていなければ、それらが形を成すのにはずいぶん時間がかかるだろう。

つまりは「何書こっかな」であるわけだが...これがもう、全然!からっきし!すっからかん!もっと言えばこんなことしている時間があるなら洗濯物を回した方が良いし、机の上は空き缶だらけだし、ゴミも久しく出していないので、もっとそういうことをした方が良い、そう分かってしまっているからこそ、余計に思考が進まない。

ここからは実況中継となります。


......。

......なんだ?体が全然動かない。


これはあれか、体はもう寝ちゃってます、みたいな感じか。困るよ~俺は原稿を書くんだ。ジャンケットバンク1話のパン屋のおじさん(神田)と同じ気持ちだ。パン...焼くんだ...うぅう~~~俺はパンを焼くんだよぉ~~~

やめときなよ
彼は何かを書くとは一言も言ってない。”何書こっかな”って言っただけだ

戯言はさておき、本当に体が動かない。あまりに眠すぎて、ギリギリ思考だけ起きてるってだけのやつだろう。一応目は開いてるし、俺の部屋だし、すぐそこにスマホがあるから、とりあえずスマホの画面さえ点ければ多少目は覚めるだろう。
あまり公言していないが、俺にもルーティーンというか、暮らしにおける縛りのようなものが一つある。
それは、「3、2、1」のスリーカウントを取ったら起きなければいけないという縛りだ。
今回のように仕事あるから死ぬほど眠いけど起きなきゃ...みたいな時に使われる。効力が薄まるのであまり多用出来ないし自分でカウントを取らなければいけないので使いどころはあまりない。(←強キャラ特有の雑魚能力みたいな説明でイイネ!)

起きてスマホ点ける、起きてスマホ点ける、起きてスマホ点ける、右スレートでぶっとばす、真っすぐいってぶっとばす...

3...2...1...!

おお、ゆっくりだが体が動く!遅え~~けど起きろ起きろ!そのままスマホスマホ!!取った取った!点けろ点けろ点けろ!!!

ハッ

ここで目が覚めた。体は起きていないしスマホも取っていなかった。俺はいつの間に寝ていて、夢の中でスリーカウントを数えていた。

......このことを書こう。時間が経っていなかったことが幸いだ。

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