――そんな高橋さんにとっての、弾き語りライブの醍醐味を教えてください。
バンドでライブをすると、演出やセットで魅せたり、音圧も出せるから迫力もありますよね。その点、弾き語りは人間勝負みたいなところが大きいのかなと。大げさに言えばステージ上に居る人間が面白くなかったら、意味がないライブだと思うんです。それを重圧に感じることもあるでしょうが、弾き語りをやる人は皆、そこが一番楽しいんじゃないかなと思います。それに、「ONE STROKE SHOW〜一顰一笑〜」というツアータイトルなので、ただ僕がニコニコ笑ってるだけじゃ面白くないだろうし。
たとえば…もちろんハプニングはない方がいいに決まっていますが、仮に起きたとしても案外、嫌いじゃないんです。これは極端な例ですが、突然町が停電になって何もかも動かなくなっても、アコギの弾き語りなら電気がなくても演奏できるし、ホールのような会場なら生音でも響く。そうした特殊なシチュエーションだからこそ響く歌もあったりするのかなって。ステージ上では、間の取り方ひとつも高橋優でしかないものがそこにあると思うので、そこが弾き語りライブの見どころにもなるのかなと思ったりします。
――確かに、「顰」にはひそめる、しかめるという意味があります。
ライブでは笑顔だけじゃなく、いろんな表情があるという思いを込めてタイトルに付けました。自分の楽曲やライブの演奏もそうですが、来てくださった人の日々のことや、その方の当日の表情も、きっとさまざまに変化しているはずですよね。ライブを1つの受け皿にして、みんなでその時間を味わい楽しめたらなと思っています。
――ツアー中、12月に40歳になり、いわゆる「不惑」を迎えます。
フワクか…(少し考える)。ファンの方はよくご存じだと思いますが、僕はすごくヤキモチ焼きなんです。火曜日にパーソナリティーを務める文化放送「おとなりさん」という番組で、先日仲がいいミュージシャンが月曜日のゲストとして出演しました。僕はそれを生放送で聴いていたんですが、「これを聞いたら、きっと優くんはヤキモチをやく」みたいな話になって(笑)。そのときにハッとしたんです。「あ、そうだ。俺はこういうときにヤキモチを焼く人だった」って。僕はといえば、「面白いな」とか「緊張しないといいな」と思いながら聴いていただけでした。少し前まで世界中にヤキモチを焼いてるみたいなのが自分だったはずなのに、そんな大人な自分に焦りすら感じて。40歳、惑わない年頃かもしれないけど、僕はまだまだヤキモチを焼いたり自分勝手な枠でいたいですね。
――まだまだ、シンガーソングライターとして転がり続けていきたいと。
そうですね。遊び心みたいなものを失った、ビジネス音楽みたいなものを僕は聴きたくないと思っていて。今のところ、遊び心とか冒険心とか…中二病じゃないけど、そうしたワクワクした感じを持ちながら年を重ねてこれています。さっきも言ったように、それは伸び伸びと自由にさせてくれてるスタッフのおかげなんですけど、だからこそ変にしっかりした人になっちゃったら意味がないなって。
この前、ラジオにゲストで来てくださったサッカー選手の方も、「楽しくてやってたはずなのに、いつしか周りからの期待に応えなきゃというサッカーになって、その途端面白くなくなった」と話してくれました。注目されると自然とそういうメンタルになってくるし、期待に応えようと頑張るんですよね。
僕には、「明日はきっといい日になる」みたいな、明るく朗らかな歌をいつでも歌いそうなイメージあるかもしれませんが、そんなやつが急に弾き語りライブで「うんこ」って曲を歌ったり、そういう、若干の裏切りじゃないけど、期待に応えることとはまた全然違うもので驚きが待っていたりすると思うんです。
そうした遊び心が、音楽活動へのモチベーションにつながることもありますから。そういう曲を聴いて「あー、もう嫌だ」って、離れてく人もやっぱりいるかもしれないけど、全員の期待に応えようとするよりは、自分の中でメッセージソングだけじゃなくて、ユーモアをもって曲を作れたり、人間関係も含めて自分が面白がっていたい。そうしているうちは、まだまだ高橋優の作品は途切れないのかなと思っているんです。
取材・文=橘川有子
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