佐々木蔵之介が主演を務めるドラマ「マイホームヒーロー」(MBS:毎週火曜夜0:59-1:29、TBS:毎週火曜夜1:28-1:58/ディズニープラスにて配信)が10月24日にスタートし、初回は第1話、第2話が一挙放送・配信された。同ドラマは、2017年より「ヤングマガジン」(講談社)で連載中の同名コミックを実写化したノンストップファミリーサスペンス。ある日、娘の零花(齋藤飛鳥)を守るために、その彼氏を殺して“殺人犯”になった平凡なサラリーマン・鳥栖哲雄(佐々木)が、推理小説で培った持ち前の知識と家族愛を武器に冷徹で残忍な闇社会の犯罪組織と闘っていく姿を描く。今回は音楽をはじめ幅広いエンタメに精通するフリージャーナリスト・原田和典氏が、同作に出演する齋藤について独自の視点で魅力を紹介する。
既にアニメ化されている今作は、このほど実に興味深いキャスティングで実写ドラマ化された。2024年3月8日(金)には映画の公開も予定されているという。筆者は年齢や家族としての立場が近いためか、どうしても佐々木扮(ふん)する47歳の父親(哲雄)に感情移入してしまう。そして「最愛の一人娘に危機が訪れようとしたら、ひょっとしたら俺もあれに近い超過激な行動に出るんだろうか。そこに踏み込む気概があるだろうか。精神的にも、倫理的にも」と、考え込んでしまった。
しかも哲雄は娘と同時に妻・歌仙(木村多江)のこともとても大切にしていて、何よりも家庭生活を重視。より充実した、よりほほ笑みあふれる家庭を築くために、勤勉に働き、堅実に毎日を過ごしてきた。勤務中にどんなに疲弊させられることがあろうと、嫌なことがあろうと、靴を脱いで自宅の中に入り、妻や娘の姿や声に接すれば、一瞬で幸せが舞い戻ってくるのではないか。あの一軒家は、彼にとっての「城」なのだ。
その「城」に暴力がぶつけられたら、一家の主としては全身全霊で防ぐしかないはずだ。しかも哲雄には、一般的な世の父親と少々異なる一面があった。本当に長い間ミステリ小説を読みふけってきただけではなく、時間を見つけては自分でも執筆を続けてきたのだ。ようするにミステリの読み書きのベテランであり、それはつまり、数多くのトリックを知識として知っているということになる。
「家族への愛」と「トリックへの造詣」が融合した先にあるものとは――。物語が進むにつれて、そうした側面がどんどんクローズアップされていくのかと思うと、さらに高揚してしまう。第2話まで見たところ、哲雄と歌仙は互いに敬愛しあう仲良し夫婦だけあって完璧なチームワークを誇り、一方、大学入学から一人暮らしを始め、「危ないから」ということで実家に戻ってきた一人娘は“事”を知らないまま、どこかノンシャラン(nonchalant)に過ごしている。その対比がまた、まぶしい。
この一家の愛娘・零花を演じているのが齋藤だ。私が最初に彼女の存在を意識したのは“国民的アイドルグループ”でセンターを張る姿を見たからでも、俳優活動を見たからでもない。フィーチャリング・ボーカリストとしての声質と発声に目の覚めるような印象を受けたのがきっかけだ。
日本を代表するアシッド・ジャズ~クラブ・ジャズ系プロジェクト、MONDO GROSSOのアルバム『何度でも新しく生まれる』(惑星タントラ)、および『BIG WORLD』(STRANGER)での彼女は、実に格好良く、さえていた。発売当時のディスク・レビューで、私はこう書いている。「スペイシーな音作りと齋藤のクールな歌声が一体化した『STRANGER』が圧倒的に輝く」。それから齋藤とはどんな人物なのかと関心を持ち、彼女がバス・クラリネットやサックスの吹奏経験を持っていることを知った。バスクラで、たとえ1オクターヴであっても、音程を裏返さずに吹奏するのは至難の技である。閑話休題。
齋藤は、この10月クール「マイホームヒーロー」に加え「いちばんすきな花」(毎週木曜夜10:00-10:54、フジテレビ系) にも、主人公の一人・潮ゆくえ(多部未華子)の妹・潮このみ役で登場している。勤務先の学習塾を始め、外ではどこか肩ひじ張っている風なゆくえが、このみとの姉妹シーンでは一転、実にリラックスした表情を見せるあたりはこのドラマの和みどころだと思っているのだが、それはそれとして、つまり、私たちは1週間に2度、異なる役柄を演じる齋藤飛鳥を見ることができるわけだ。
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