幼少期に父親が蒸発した息子と、失踪した父親本人。互いが互いの素性を知らぬまま、恵と甚爾は戦いに突入する。先の陀艮戦で七海健人たちを救出するために無理な領域展開を行った恵は消耗が激しく、残った呪力で脱兎を召喚し、撹乱しながら肉弾戦を仕掛けていく。しかし、そもそもフィジカルだけで特級呪霊を圧倒する甚爾に敵うはずもなく、恵はあっという間に追い詰められていく。雷撃による鵺(ぬえ)の奇襲も通じず、逃げ込んだのは狭い一本路地。しかし、ここに恵は勝機を見出していた。
相手が確実に正面から襲ってくると踏んだ恵は、ここで決死のカウンターを仕掛ける作戦に出る。足元には影の落とし穴を作り、脱兎でそれを隠し、一瞬のスピードで踏み込んでくる甚爾のバランスを崩す。そして、致命傷の一撃をかわしながら、隠し持っていた剣を甚爾に突き立てる。まさに肉を切らせて骨を断つ攻撃だったが、甚爾のフィジカルはそれすらもかわし切ってしまった。今度こそ絶体絶命かと思われた恵だが、変化は甚爾の方に起こった。
交差した瞬間に目が合っていた2人。甚爾はこのとき、相手に何かを感じ取ったのかもしれない。今は“器”に肉体の情報しか降ろされていないはずの甚爾の脳裏に、我が子を禪院家に売ったときのこと。そして、「恵をお願いね」と言われたあの人の言葉がよみがえる。相手の名前を聞き、「禪院じゃねぇのか」「よかったな」と言葉を繋いで自決した甚爾の目は、自我を取り戻したようでもあった。
甚爾の自決という最期は驚きのものだったが、視聴者の多くはそれ以上に、甚爾の中に見た恵への愛情に胸打たれたようだった。Xには、「『よかったな』で、降霊術で降りてきた戦闘人間じゃなく伏黒甚爾になったの本当に好き」「これは甚爾さん、恵になんだかんだめちゃくちゃ愛情持ってたっていうことで良いのかな。都合のいい夢を見ていいかな」「その人君の父親だったんだよ、君を祝福して逝ったんだよと伝えたい」という、2人に向けた感動のコメントが集まっていた。
一方、宿儺に挑んでいた漏瑚は、想像をはるかに超えていた相手の力に驚愕していた。以前、ニセ夏油に言われた、自分の強さは甘く見積もって宿儺の指8、9本分。それは本当に甘い見積もりだったことを思い知らされる。渋谷のビル群を沈めるほどの溶岩の海、隕石召喚の「極ノ番・隕」でさえかすり傷1つ付けることはできず、軽く力を振るっているだけの宿儺にただただ圧倒されてしまう。そんな漏瑚に宿儺が持ち掛けたのが、漏瑚の土俵、炎による火力勝負だった。
宿儺の術式は切断・斬撃だと思っていた漏瑚は、宿儺が炎を操ることに驚きの目を向ける。漏瑚の火球、宿儺の炎の矢。勝負は一方的だったのかもしれない。自然呪霊たちが還る先なのか、真っ白い空間で漏瑚は花御、陀艮と再会する。ここで見せたのは、呪霊ではあるが、人間的な漏瑚の心だった。3人の感傷的なシーンに加え、宿儺から送られた「誇れ オマエは強い」という手向けの言葉に、自分でも分からない感情を覚え涙をこぼす漏瑚の姿。
印象深く刺さったこのシーンには、「漏瑚の最期は泣いちゃったな。知らない間に好きになってた」「花御、陀艮と話している時の漏瑚の穏やかな顔が印象的でたまらなかった」「漏瑚の涙と燃え崩れる最期、間違いなく今期の名シーン」など、視聴者から様々な感想が寄せられていた。
■文/鈴木康道
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