【漫画】鉄道の客車を少女に擬人化…見習い車掌に“ブレーキのコツ”を教えてあげる姿に「人と列車の想いが繋がるって素敵」「不思議な世界観」の声

2023/11/21 09:00 配信

芸能一般 インタビュー コミック

約150年前の鉄道の様子画像提供/IORIさん

コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回紹介するのは、IORIさんの漫画『151年前の、今日の話』だ。

作者のIORIさんは『百年列車』という漫画の4話目となる同作を2023年10月14日にX(旧Twitter)に投稿したところ、5000件を超える「いいね」が寄せられている。本記事では作者のIORIさんにインタビューをおこない、創作のきっかけやこだわった点などについて語ってもらった。

客車を少女に擬人化…見習い車掌との特訓エピソードに反響続出

『151年前の、今日の話』(1/17)画像提供/IORIさん

少女として擬人化された明治時代の客車が主な登場人物である本作。主人公の四輪三等客車「ハ16」が、荷物を自身の車体に無理矢理詰め込もうとする乗客と遭遇するところから物語は始まる。

「車体が傷んじゃう」と困るハ16を助けてくれたのは、気難しい性格の緩急車「ブ5」だった。助けてくれたお礼から、雑談を交わすことになったハ16とブ5。ブ5がおもむろに語りだしたのは、自身の過去の話だった。

日本に鉄道が伝わってまだ間もないころ、ブ5は列車の操作に関して英国人「リチャード」による訓練を受けるも、思うように上達しないことで腐っていた見習い「吉澤三郎」と交流を持つ。

夜通しブレーキのかけ方を練習することにした吉澤に付き合ってあげるブ5。練習のかいあって、吉澤は重要な場面で副制動手に抜擢される。困惑する吉澤に、君を信頼しているから任せるのだと理由を話すリチャード。実は、夜にやっていた吉澤の特訓をリチャードは見ていたのだった。

時が経ってハ16は吉澤の現在について尋ねると、ブ5は「彼はもうずいぶん前に列車を降りたわ」と答える。その後を語る前に、ブ5が見上げた視線の先には…。

読者からは、「キャラそれぞれの思いや歴史が繋がっていくの素敵」「リチャードさんの厳しくも矜持のある指導に胸が熱くなった」など好評の声が寄せられていた。

作者・IORI「鉄道に詳しくない方にも楽しんでほしい」

『151年前の、今日の話』(16/17)画像提供/IORIさん

――『151年前の、今日の話』を創作したきっかけや理由があればお教えください。

この話は『百年列車』というタイトルで書いてる物語の第4話なので、一応それぞれに分けて回答します。まず『百年列車』という漫画シリーズを始めたきっかけですが、自分は明治、大正期に活躍していた小型木造客車が好きで、これを模型で愉しんでいました。

これらの車両は鉄道ファンの間でもマイナーで、模型製品も今から50年前に作られたものが細々と中古流通しているような状態でした。そのため「無いなら作ろう!」と自分で模型製品を制作、販売するようになったのですが、そうすると今度は「模型はちょっと気になるけどどういうものかよくわからない…」「面白そうだがいまいち馴染みがない…」という声を聞くようになりました。

そこで「馴染みがないのなら馴染んでもらおう」と考え、当時(2016年)は艦船や城郭などの擬人化ゲームが流行ってましたから、「客車を擬人化したキャラクターを作れば多少は親しんでくれるかも…」「あと物語があるともっと親しんでくれるかな?」「とはいえ当時の鉄道エピソードも紹介したいとなるとヒト型だけではやりにくいな…」と考えて、今の「車両の上に、その車両を擬人化したキャラクターが乗っていて何か色々する漫画」という形式になりました。

『151年前の、今日の話』は主人公と同じ列車に連結されたブレーキ車の過去を掘り下げる回になっています。これはこの漫画を描いたのが去年なのですが、この年はちょうど日本の鉄道が開業して150年目の節目に当たる年でした。今回の話の主役であるブレーキ車は「開業時からの生え抜き」という設定でしたので、ぜひこの記念すべき年にこのエピソードを発表しようと考えて描きました。

――描いたうえで「こだわった点」あるいは「ここに注目してほしい!」というポイントがあれば教えてください。

この漫画では鉄道車両が主役ですので、そのあたりは丁寧に書くようにしています。それと「あまり鉄道に詳しくない方にも楽しんでほしいな」と思ったので、解説が必要そうな専門用語はなるべく出さないようにしています。

ただ全部言い換えてしまうとそれはそれでらしさがなくなるので、そういった用語を出すときは「あれがそうね」みたいにそれとなく解説になる描写を入れるようにしています。あとは、キャラクターが「イヤなやつ」にならないようにしています(描いてて楽しくないので)。

――特に気に入っているシーンやセリフがあれば、理由と共にお教えください。

『151年前の、今日の話』(2/5)の4枚目のページの、回想が始まると同時に風景が明治40年(1ページ目からここまでの作中年代)から明治5年のそれに切り替わる部分が結構気に入ってます。

現在の新橋~横浜間の鉄道は街の中を走っていますが、これは明治中頃より線路より海側が埋め立てられて陸地になったもので、開業したばかりの線路はほぼ海沿いを走っていました(線路の位置は当時からほとんど変わっていません)。

明治40年というのは私達からすれば「過去」ですが、作中のキャラクターにとっては「現在」であり、いろいろなものが便利になった先進的な時代です。でも35年前はこうではなかった。風景も汽車も今と全く違ったんだ…というのをビジュアルで見せたいな、と思ってこのようなシーンになりました。

実のところ、この話は半分くらいはこのシーンがやりたくて描いたようなものです…。あと最後の、指導車掌氏から吉澤車掌が手袋を受け取るところも結構好きです。

――鉄道について詳しく描写されていますが、作者様の経験や知識をもとに描かれているのでしょうか?

なにぶん150年前の話ですから、基本的には本で読んだことであるとか、博物館などで保存されているものを参考にしています。ただ実際に体験できるものについてはなるべく実際にやってみてから描きたいとは思ってまして、今回のお話ですと車両のブレーキハンドルのくだりは、実際に古い客車を保存運転しているところを訪ねて、そこでブレーキハンドルを実際に回させていただいた体験をもとに描いています。

また学生時代に駅でバイトしていたことがあるので、その時の経験をキャラクターたちの考え方や行動にちょっと反映させたりしています。

――個人的に気になったのですが、最後の方に登場した鉄道に乗車している人は明治天皇でしょうか?

気づいてくださってありがとうございます!ご指摘の通り明治天皇です。

鉄道において天皇陛下の乗る列車は「お召列車」と呼ばれ、通常は専用の客車に、その時使える一番良い機関車と人員をもって運転します。この時の祝賀列車は明治天皇をはじめ、西郷隆盛や大隈重信などの政府要人や、各国の大使も乗っていましたので、吉澤車掌が慌てるのも無理なからぬことだったのです。

――今後の展望や目標をお教えください。

明治の鉄道についていろいろ本を漁ってると、今では考えられないような無茶をしていたり、逆にのんびりしていたりといったエピソードがたくさん出てきます。そういったものや、鉄道以外の当時の風俗や世相、また今と変わらぬ人々の悲喜こもごもなんかを適度に入れつつ、古の鉄道に興味を持ってもらえるようなお話にしていきたいなと思います。

――作品を楽しみにしている読者へメッセージをお願いします!

発表が半年~1年ごとに1話と、のんびりペースになってしまってはいますが、今後も描き続けていきますのでよろしくお願いします!