声優としてTVアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』などに出演、さらに映像作品や舞台俳優としても幅広く活躍する佐藤日向さん。お芝居や歌の表現とストイックに向き合う彼女を支えているのは、たくさんの本から受け取ってきた言葉の力。「佐藤日向の#砂糖図書館」が、新たな本との出会いをお届けします。
子どもの頃は学校という場所のおかげで誰もが平等に本から生まれる文字と触れ合っていた。しかし、大人になるにつれて読むか読まないかは授業がなくなった分自由に選択できるようになった。
私はこの時の流れが寂しく感じることがある。
今回紹介するのは夏川草介さんの「本を守ろうとする猫の話」だ。本作は突然祖父を亡くし、祖父の葬式で初めて会った叔母に引き取られることになった高校生の林太郎が、祖父が経営していた古書店で引きこもり始めていた時、「本を救うために力を貸せ」と言葉を話すトラネコが現れ、本にまつわる四つの迷宮に迷い込むファンタジー要素のある物語だ。
本書を手に取った時の第一印象は「看板猫が登場するのかな」だった。ページを捲っていくと猫が喋ったり迷宮が本にまつわる不思議な空間が現れたり、THEファンタジーで普段読むジャンルと違う新鮮さと面白さであっという間に読み切ってしまった。
特に印象的だったのは主人公である林太郎が本を救うために祖父からもらった言葉で本を守る姿だ。祖父を亡くした寂しさが消えない林太郎が、過去の祖父の姿を言葉を通して振り返っていく様子が切なくも読み手側を温かい気持ちにさせてくれる。
そしてこれまで読んできた本からは言葉は使い方を間違えると武器となり人を傷つけるという印象を受けることが多かったが本作からは言葉は長く人の心に残るからこそ、どんな言葉も使い方次第で時には武器よりも強くなり、それは人に勇気を与えることが出来るんだと強く感じた。作中に登場する言葉たちに色々な意味が込められていて読み手によって印象に残る言葉が変わるのも本作の魅力の一つだと私は思う。
私は「今の世の中は、色々な当たり前のことが逆さまになってしまっている。巧妙に嘘をつき、弱い者を踏み台にし、困っている人に付け込むことに、皆が夢中になってしまっている。いい加減そんなことはやめなさいということを、誰も口にはしないのだ。」という言葉が印象に残っている。
SNSに投稿をする時の怖さや、投稿した後に言われる言葉たちから貰う負の感情の言語化が難しいと日々思っていたが、この言葉がしっくりときた。嫌な言葉を書くことに躊躇いがない人、それを見て見ぬふりをする人、同調する人。これはきっと新たに生まれてしまった文化でそれを無くすことは出来ない。
そんな状況から身を守るためには知識と言葉を沢山身につけたら良いわけではなく、あくまでも自分に合うと思った言葉を残すことが大切なんだと気付かされた。
大人が楽しむ絵本のような魅力がある「本を守ろうとする猫の話」を読んで、自分にぴったりと合う言葉を見つけてみてほしい。
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