――印象に残っているシーンを教えてください。
林:再び見直して、本読みのとき、室内で立ってリハーサルをしたとき、撮影中…などいろんな場面を思い出したのは、笹と良子さんの距離が縮まって、でも笹としてはまだXに対する恐怖や自分がやらなければいけないことへの思いといった複雑な感情がある中で、本能的に良子さんに惹かれて手が触れてしまうシーンです。どれくらいの触れ方なのか、手の形、2人の空気感など、監督も含めてすごくこだわって、本番当日までたくさん話し合ったんですよ。実際に完成したものを観たら、切なくもありすごく美しいシーンになっていてステキでした。愛おしいものになっていましたね。
上野:全部に意味があるのでネタバレになっちゃうから難しいのですが、良子と笹が2人でアパートで一緒にいる時間は好きでした。良子にとって一番楽しかった時間なので。
――良子はXかもしれないという疑いの目が常に持たれていましたが、その幸せなシーンを演じる上で気をつけたことはありますか?
上野:何度見返しても、良子が何者だとしても筋が通るようにしたいと思いました。最初、熊澤監督がなんで私にこんなミステリアスな女性を?と思ったのですが、このような感じだったら演じられるのかもしれないという間を模索していったんですよ。原作の良子はもっとミステリアスで人間味がなく、気づいたら涙があふれているけどその感情はわからない…みたいな描かれ方をしています。そこを無理なく、でももっと人間味と柔和なところを足していきました。笹もですが、原作を大事にしながら色んなニュアンスを感じられる人物につくっていった気がします。ただ、ミステリアスだからといって、映画を観ながら「この人ってX?Xって何?」と考えること自体がマジックなんですよね。
林:監督も最初にそうおっしゃっていました。
上野:生まれとか育ちとか学歴とか…そんなこととXは同じで、その人に実際に会って話して見えてくることが一番大事。その感覚を絶対に失ったらダメなんですよ。どんな情報よりもあなたが一番で、あなたが下す判断が一番なので。自分を守るのも誰かを愛するのも自分が全てなんですよ。
林:自分の感情を信じることが大事。
上野:笹は心を痛めますが、自分のことでも見えないことってあるじゃないですか。痛みも幸せもそういうことを大事にして生きたいな、と思いました。自分の心がどう感じるかが全てだし、答えもみんなと違っていいと思います。心地よく生きられたらそれでいいですね。
取材・文=玉置晴子
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