“人の心が生み出す怪物”を描く台湾ホラー、「疫起/エピデミック」「紅い服の少女」などに見る枠に収まらない魅力とは

2023/12/14 18:00 配信

映画 コラム

紅い服の少女 第一章 神隠し※提供画像

台湾の名作映画を紹介する上映イベント「TAIWAN MOVIE WEEK」が10月に開催されるなど、近年盛り上がりを見せている台湾映画をWEBザテレビジョンで大特集。本記事では、ウイルス感染により封鎖された病院での群像劇を描くパニックスリラー「疫起/エピデミック」、台湾ホラーブームの火付け役ともいわれる「紅い服の少女 シリーズ」、人間の恐ろしさを突きつけられるスプラッタホラー「怪怪怪怪物!」から見る、台湾ホラーの恐怖の源泉と魅力にせまる。

ウイルス感染の恐怖!実際の病院封鎖事件をもとにした「疫起/エピデミック」

【写真】ウィルスが引き起こすパニック映画“疫起/エピデミック”※提供画像


今年2023年に公開された本作は、得体の知れないウイルスとともに、病院スタッフ、患者、見舞い客などが病院のなかに閉じ込められてしまうパニック系のスリラー映画だ。2003年の台北で実際に起きた、SARSの院内感染にともなう病院封鎖事件をモチーフとしている。エピデミックというのは、感染症の流行の段階を示す言葉で、アウトブレイクよりも段階が進んで、より広い地域に感染が拡大している状態のことを指す。さらに感染が広がって、世界的な流行となった段階がパンデミックだ。

物語は、胸部外科医のシア(ワン・ポーチエ)がややフライング気味に夜勤を終えてタクシーに乗り込むところから始まる。5歳になった子どもの誕生日を祝うためだ。しかし、彼の勤務時間内ギリギリに急患が搬送されてきたと連絡が来て、シアは病院へと呼び戻されてしまう。手術を終えて今度こそ帰ろうとした矢先、出入口にシャッターが下ろされた。

何の事前情報も告知もないまま、そのほかの出入口も警察によって封鎖され、医師や看護師をはじめとする病院スタッフ、患者やその家族など大勢の人たちとともに、病院に閉じ込められることになったシア。この病院でSARSの院内感染が拡大している可能性があるとして、感染者を外に出さないための封じ込めが行われたのだ。

致死性の高いウイルス、感染者が特定できていないという緊迫感、封鎖がいつまで続くのかわからない閉塞感のなかで、院内は次第にパニック的な様相を呈していく。すぐにでも娘のところへ向かいたいシア、仕事熱心な看護師のタイホー(ツォン・ジンファ)や彼の恋人で研修医のリー(クロエ・シアン)、スクープを狙う入院患者の記者ジン(シュエ・シーリン)など、さまざまな人物の思いや葛藤を描く群像劇だ。登場人物たちがどのように窮地に立ち向かい、どのように決断・行動をしていくのか、極限状態でどのようにパニックは起こるのかというリアルな描写が見どころとなっている。

都市伝説から生まれた台湾ホラーブームの火付け役「紅い服の少女 シリーズ」

紅い服の少女 第二章 真実※提供画像


台湾の有名な都市伝説をモチーフとした「紅い服の少女 第一章 神隠し」(2015年)は、台湾ホラー人気の火付け役といわれている作品。続編として、「紅い服の少女 第二章 真実」(2017年)がつくられている。監督を変えて「人面魚 THE DEVIL FISH」(2018年)というスピン・オフ作もつくられたほどの人気シリーズだ。

「紅い服の少女」という都市伝説は、台湾の心霊番組に投稿された1本の動画がもとになっている。ハイキングを楽しんでいるごく普通の家族の映像に、実は家族ではない紅い服の少女が映りこんでいたというものだ。その数日後、家族の1人が謎の死を遂げているというから恐ろしい。20年以上前にこの番組が放送されて以来、この動画からさまざまな憶測と都市伝説が生まれてきた。

台湾では、山には魔神仔という妖怪もしくは精霊がいるという言い伝えが残っている。山に入り込んだ人間にいたずらを仕掛け、連れ去ったり、虫などを食べさせたりするという。紅い服の少女は魔神仔なのではないかとも言われており、本作でもその説がとられている。

第1章では、祖母と2人暮らしをしている青年ジーウェイ(ホアン・ハー)とその恋人でラジオDJのイージュン(アン・シュー)の周りで次々と神隠しが起こる様が描かれた。ジーウェイの祖母の友人が山でハイキングをしている最中に行方不明になったのを皮切りに、祖母、そしてジーウェイ自身も失踪してしまう。祖母の失踪時にジーウェイのもとに送られてきたカメラには、ハイキングをする老人たちについてくる"紅い服の少女"の姿が映っていた。イージュンは魔神仔の仕業ではないかと疑うが……。

第1章で悪霊のような存在として登場人物たちと観客を恐怖に叩き落した紅い服の少女だが、第2章ではなぜ彼女が生まれたのかという秘密が明かされる。第1章・2章を通した見どころは、紅い服の少女が引き起こす怪奇現象のすさまじさ、肌にヒタヒタと恐怖が染みてくるような不気味さだ。加えて、第2章は感動的な家族ドラマとしての魅力も備えている。ぜひ、第1章・2章を通して見てみてほしい。