派手な演出やストーリーの意外性はない。しかし、豪華俳優陣の演技力と監督の手腕により徐々に迫ってきているであろうウイルスに対する恐怖、SARSの感染が分かった時の絶望、人を救えなかった後悔、すべての感情が手に取るように分かるほど、丁寧に、そしてリアルに映し出されている。
同じ病院内にいるはずなのに、遠く離れてしまった安泰河と李心妍の姿からは、“感染症”だからこそ、手が届くところにいても会えない・触れられない、ウイルスの恐怖と残酷さを描き出す。また、入院中の父が自ら死を選んでしまった息子、看護師として働く母に会いたい一心で院内に忍び込むも、SARSに感染してしまった母に会えない娘の姿からは、最後の瞬間を前に“別れを言えること”がどれだけありがたいことなのかをひしひしと感じる。
作品の中では、看護師たちのストライキも描かれているが、この作品でなければストライキを起こす看護師たちを嫌な奴だと客観視していられるだろう。だが「もし自分がここにいたら…」そう考えさせてしまうのがこの作品だ。未知のウイルスが猛威を奮う狭い空間で、感染しているかもしれない人と接触したくないと思ってしまうのはごく自然なことだろう。自分を守るべきなのか、それとも他人を救うべきなのか、ストライキを起こすという選択をした看護師たちにも共感してしまった。
その一方で、自らがSARSに感染しても患者を助けようと奮闘する者の姿には心を打たれずにはいられない。娯楽として楽しむというよりも、教養として見ておくべき映画のようにも思う。当時、自らを犠牲にウイルスと闘った人々、そして新型コロナウイルスの驚異の中、人々を救った全世界の医療従事者に感謝と尊敬の念が尽きない。
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