――黒見さんは師匠になにか聞いてみたいことはありますか?
黒見:MLBと日本のプロ野球との違いみたいなものがあれば知りたいです。例えばボールなどは結構違いに苦労されている方もいますよね。
五十嵐:違いますね。日本とアメリカでは皮も違うし、縫っている糸も違う。アメリカはボールのサイズも実は統一されていないので、大きいものから小さなものまであるんです。日本はそのあたりは統一されていますからね。
黒見:滑りやすさも違うのですか?
五十嵐:そうですね、ボールを持ったとき、縫い目に指がかかりづらい感じはありますね。(読売ジャイアンツの)戸郷翔征選手とお話しする機会があったのですが、季節によっても違うと話していましたね。春先だとめちゃくちゃ滑ると話していたのですが、フロリダに行って湿度の高いところだと、同じボールでもしっくりくると言っていました。
少し前までMLBでは粘着物質をつけている投手が多かったじゃないですか。僕も使っていたのですが、あれは、あまりにもボールが滑るから。でもやりすぎると問題になっちゃうんですよね。いまは禁止されていると思うけれど。
黒見:他には何か大きく違うなと感じたことはありますか?
五十嵐:マウンドの硬さかな。日本は球場によって広さや高さが違うように感じるんです。アメリカはどの球場でも、決まった土を使っているので、硬さも一緒。安定しているんです。でも日本は結構違うんです。硬さが変わると、足を踏み込んだときの土の掘れ具合が違うんですよね。
黒見:土の硬さの違によって、投球フォームが変わったりするのですか?
五十嵐:変わりますね。日本は結構球場によってマウンドの土の硬さが違うので、掘れ具合でリリースポイントも変わるんですよ。その意味で、アメリカは決まってしまえば、一定のフォームで投げられます。僕はマウンドの硬さは結構気にしていました。まあ、気にしない人はまったくしないけれど(笑)。
黒見:影響も大きいですよね。
五十嵐:マウンドの硬さというより、やっぱり滑るボールというのは影響が出ると思います。滑る=ある程度強く持たなければいけない。そうなるとやっぱり肘に負担がかかる。だからアメリカに行くとトミージョン手術(側副靱帯再建術)を受ける投手が多いですよね。もう一つ、滑ることでボールが抜けてしまうので、アメリカに行くとショートアーム(トップを小さく作る投法)にする投手が増えますよね。しっかりテイクバックを取って投げて方が力の伝達はあるのですが、やっぱりボールが滑るために、コントロールを安定させ、肘に負担をかけない投げ方というのがいまの流れですよね。
黒見:大谷選手もショートアームになりましたね。
五十嵐:そうですよね。日本にいるときは結構下に腕を降ろしてから投げていたけれど、いまは降ろさないですよね。そういう変化をしっかり自分のものにしていかなければいけないというのもMLBを生き抜いていくうえでは必要なスキルだと思います。僕は今までのフォームで投げたいという思いが強くて、あまりうまく結果が出ませんでしたから。ダルビッシュ有投手や大谷選手はその辺りの対応力もすごいですよね。
黒見:バッターもMLBにアジャストしていくために必要なことはありますか?
五十嵐:日本の野球において、バッターって打つまでの間を大事にするんですよ。でもMLBでは、あまりそういう概念がない。投手はバンバン投げてくるし、バッターも来た球に対応するという野球なんですよね。日本だと、足をあげて間を作ったりするバッターが多いと思うのですが、間合いの勝負的なところがある。間を作って力を抜いて、インパクトの瞬間に最大の力を入れることによって打球の強さになる。でもメジャーだとバンバン160キロぐらいの剛速球が来るので、足をあげていたら間に合わない。
大谷選手もだんだん足をあげなくなりましたよね。イチローさんも振り子打法をアメリカでは封印しましたよね。そうやってアジャストしていかないとなかなか結果が出ない。でも、身についた打ち方って簡単に変えられるものじゃないんですよ。だからこそ、大谷選手やイチローさんはすごいんですよね。
黒見:確かに簡単にアジャストしているように感じますが、そこはものすごく大変なことなんですね。実際五十嵐さんがMLBに行ったとき、カルチャーショックだなと感じたことはありましたか?
五十嵐:契約のドライさはMLBならではですね。日本は1年契約で給料も12等分されるのですが、MLBは4月から9月までの6か月間なんです。だから途中で切られる可能性もある。あと日本はキャンプなどに行くときの飛行機やホテルの手配など、全部球団がやってくれるのですが、アメリカはキャンプ地で住む家も自分で決めなければいけないし、移動も自分の車で行くんです。
そして、とにかくMLBの練習時間は短い。日本はかなり長い時間キャンプでは練習をするので、そこで補われるけれど、MLBのキャンプだけでは補えないので、どこまで自分で強化するかしっかり意識がないと戸惑うと思います。ピッチャーはよく「投げ足りない」なんてことを聞きますよね。でも勝手に練習をすると、コーチに怒られる。コーチも選手の管理が仕事なので。その辺りも難しいところですね。
黒見:すごく面白いお話をありがとうございました。まだまだお聞きしたいことはたくさんあるので、次週以降もよろしくお願いいたします。
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