前半はコミカルさを交えた戦いだったが、東堂がリタイアし、虎杖と真人の一騎打ちになると雰囲気は一変する。黒閃を放ち、黒閃を受けたことで自分自身の魂の本質をつかんだ真人は自らに無為転変を行うと、「遍殺即霊体(へんせつそくれいたい)」へと姿を変える。これまで変幻自在の体で巧妙に魂の位置を隠し、軟体の性質で戦ってきたのとは真逆に、甲殻をまとったような体は脹相の血の鎧よりも硬く、これが真人の剝き出しの魂の形だった。
この真人を倒すには、最大呪力出力の黒閃をぶつけるしかない。虎杖が狙う一撃を真人も見抜き、遍殺即霊体を解く(体サイズを変える)という手段でミートポイントをずらし、黒閃を不発に終わらせる。しかしそれは黒閃ではなく、二度目の衝撃が遅れてやってくる逕庭拳(けいていけん)だった。東堂のアシストを受け、本命の黒閃を決める虎杖。これで勝負は決した。
「ただオマエを殺す。また新しい呪いとして生まれたらソイツも殺す」
「もう意味も理由もいらない」
「錆び付くまで呪いを殺し続ける」
そう宣告する虎杖の両目には冷たい殺意しかなく、恐怖に震える真人は“呪い”という存在でありながら、まるで幼児退行でも起こしたように錯乱して逃げ始める。景色は吹雪く雪原に代わり、狼が傷ついたウサギを追い詰めていく。今まで人間を狩る側であると疑うことなどなかった真人が、完全に狩られる側に代わった瞬間だった。
この見事な心象風景には視聴者も息を飲み、「手負いの白兎 折れた脚を見やる絶望を煽るカットもよかった」「ここで虎杖を狼の群れの一人として描いてるの呪術師という群れ=大きな歯車の一部ということなんだろうな」「虎杖くんに狼というビジョンを重ねるの『狡兎死して走狗烹らる』って言葉を思い出すな。その在り方は兎が狩り尽くされた時に不要になる猟犬の生き方だ」など、考察も交えた様々な感想が上がる。また、「東堂のウキウキタイムと虎杖の凍えるセリフの落差よ」「同じ作品を見ていると思えない正気度の違い」といった、前半と後半のギャップに瞠目するコメントも多く寄せられている。
※島崎信長の崎は正しくは「たつさき」
■文/鈴木康道
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