市川團十郎の娘・堀越麗禾のピュアな声の演技が胸を打つ「ザ・クリエイター/創造者」人類とAIの“幸福な共存”は可能か

2024/01/19 11:10 配信

映画 レビュー

映画「ザ・クリエイター/創造者」で堀越麗禾が日本版の声優を担当するアルフィー(C) 2024 20th Century Studios

近未来を舞台にしたSF映画「ザ・クリエイター/創造者」が1月10日に配信された。同作でストーリーの鍵を握るAIの少女・アルフィー(マデリン・ユナ・ヴォイルズ)の日本版声優を現在12歳の堀越麗禾が演じている。十三代目市川團十郎を父に持ち、舞踊家・四代目市川ぼたんを襲名している彼女は、この作品でアルフィーのピュアな声を見事に表現し、声優としても演技の幅を広げた。(以下、ネタバレがあります)

ギャレス・エドワーズ監督の最新作


同作は、映画「GODZILLA ゴジラ」(2014年)、「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」(2016年)などを手掛け、世界から高い評価を得たギャレス・エドワーズ監督の最新作。舞台はAIが社会の各所に普及した2075年。人間を守るはずのAIが反乱を起こし、ロサンゼルスで核爆発を引き起こした。その5年後、人類とAIの戦争が始まった世界で、元特殊部隊員のジョシュア(ジョン・デヴィッド・ワシントン)は、人類を滅亡させる兵器を作り出したクリエイター「ニルマータ」が作り上げた秘密兵器の破壊を命じられる。作戦のため、「ニューアジア」に潜入したジョシュアだが、ニルマータの本拠地で見つけたのが少女の姿をしたAIだった。ジョシュアは彼女をアルフィーと名づけ、AIの破壊とは別のある目的から、アルフィーと行動を共にしていく。

「人類とAIの戦争」がテーマとはいえ、AIが支配する「ニューアジア」ではAIと人間が共存している。しかし、劇中の「西側」は、ノマドという宇宙兵器を使ってAIもろともニューアジアの住民を殺りくすることも辞さない構えだ。西側とニューアジアは、それぞれ明らかに欧米とアジアがモチーフになっていて、「欧米とアジアの分断・対立」という極めてデリケートなメタファーも表象している。

そんな敵対する2つの勢力の中間にいるのがアルフィーだ。人間と同じ顔に機械の後頭部を持つアルフィーは、ニューアジアとは違うジョシュアの言葉も理解し、AIとしての学習能力を発揮していく。それは人間の子どもが好奇心を見せ、身の周りの経験から成長していく過程にそっくりで、「戦闘マシーン」だったジョシュアとも心の交流を深めていく。

堀越麗禾(C) 2024 20th Century Studios

堀越の声でアルフィーのピュアな部分が強調


堀越が演じるアルフィーの声は、視聴者には得体の知れないものに映っていたAIをより人間らしく、共感できる存在にしてくれる。最初はジョシュアが理解できないニューアジアの言葉をたどたどしく発していたアルフィーだが、言語を覚えてジョシュアとは人間同士のようにコミュニケーションをとっていく。12歳らしい透明感のある声で、アルフィーの無垢さが強調されて伝わってくる。

序盤、AIを人間を滅ぼす悪者として見ていたはずの視聴者は、アルフィーの存在で視点の転換を余儀なくされるだろう。西側がニューアジアに対してやろうとしているのは一方的な殺りくではないのか。AIにも感情や思考があり、痛みを感じるかもしれない。人間と見分けのつかないAIも登場するこの世界で、人間とAIの境目はいったい何なのか、ジョシュアたちの任務は正義なのか――。

AIの能力が人間を超える「シンギュラリティー」の到来もうわさされる時代だが、古典的なSFで描かれてきた機械と人間の対立だけでなく、前述のような異文化の対立や人間を人間たらしめているのは何か、といった大きなテーマに挑んでいる意欲作だ。アルフィーとジョシュアの交流、そして明かされる核爆発の真相や世界の行方は、人間とAIの境界をいっそう曖昧にして、見る者にこれらのテーマを問い掛ける。

映画「ザ・クリエイター/創造者」より(C) 2024 20th Century Studios