2023年末に発表された新作ラインアップで「DEATH & DETAIL 事実は語る」というタイトルの新作ミステリードラマシリーズが配信される、という情報に心躍らせたまま新年を迎えたミステリーファンもいるのではないだろうか。その時点ではさほどディテールが明らかになっていなかったこともあり、詳しい内容を想像して胸を膨らませた人も多かろう。そして満を持して2024年1月16日に初回2話同時に配信が始まったということで、今回、幅広いエンタメに精通するフリージャーナリスト・原田和典氏が本作を視聴し、独自の視点で見どころを紹介する。(以下、第2話までのネタバレを含みます)
世界的セレブの華やかな世界を舞台にした本作は、豪華に修復された地中海客船で密室ミステリーの容疑者となってしまった若い女性を描いたミステリードラマシリーズ。イモジェン・スコット(ヴァイオレット・ビーン)と名乗る若い女性は、密室殺人が起こった夜に被害者の部屋にいた証拠が残ってしまう。容疑を晴らすためには、確固たるアリバイが求められるところだし、どうせなら無実をスカッと証明したい。そのためには、世界一の名探偵との呼び声も高かったルーファス・コーツワース(マンディ・パティンキン)と組む必要がある。だが、「一流の探偵がついたなら、もうこれで百人力」などとイモジェンは思ったりしない。というのも、彼女は過去の因縁からルーファスのことを軽蔑していて、できれば1mmも関わりたくないからだ。
いかにイモジェンが無実を証明していくのか、なぜ彼女はルーファスに悪印象を持っているのか、ルーファスはそんなにダメな男なのか、などなどの事柄が、見ていて数十分のうちに分かってくる。まだ第2話までしか配信されていないが、1話が終わる頃には「これはじっくり、最後まで付き合っていきたい物語だな」との思いが揺るがなくなった。登場人物のほんの少しの体の動きや、さりげない口調の変化が、実はストーリーのカギを握っているのではないか…とすら思えてくる。
原題「Death and Other Details」に照らし合わせると、「死は一つだが、その詳細は複数だよ」ということになる。一つの死を巡っていろんな発言が飛び交い、そのうちのいくつかは確実にうそなのかもしれないが、とにかく見る者は、否が応でもその謎解きの場に立ち会うことになる。密室ものであり、群像劇であると同時に、いろんな人種が登場することによって生まれていくであろう多彩さ(各キャラクターのエスニシティが、今後、どう描かれていくのかにも期待したい)。ところどころにちりばめられているユーモア、高級ホテル並みの客船の内装、海上の風景なども見ものだ。
ある種殺人事件のゴタゴタに巻き込まれた形のイモジェンには、映画「トゥルース・オア・デア ~殺人ゲーム~」(2018年)などに登場しているヴァイオレット・ビーンが扮(ふん)し、ルーファス役は「愛のイエントル」(1983年)、「ディック・トレイシー」(1990年)など古典的映画にも登場し、歌手としても知られるベテラン俳優マンディ・パティンキンが務めている。
敵対心を向けながらも自身の疑いを晴らすために“即席助手”としてルーファスに付いたイモジェン。今のところはヒリヒリした関係性の2人だが、回が進むにつれて打ち解け合って“バディ感”を増していくのだろうな、と、勝手に予想している。事件の行方はもちろんのこと、2人の関係性がどうなっていくのかも、第3話以降のポイントになるに違いない。
それにしても、厚みのある物語だ。誰かが確実にうそをついていることに疑いの余地はないのだが、逆に、というか同時に一点の曇りもない、1mmのズレもない「真実」などこの世にあるのだろうか、という気持ちも湧き起こってくる。ある種“定番”が詰まった物語ともいえるが、そう感じさせない筆致に引き込まれる。ミステリー好きにとっては、最終回まで前のめりな気分が収まることはない。物語の真実は分からないが、それだけは事実だ。
「DEATH & DETAIL 事実は語る」は、毎週火曜にディズニープラスのスターで配信(全10話)。
◆文=原田和典
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