コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は須田翔子さんの『ペパロニ・ヴァンパイア』(マンガボックス)をピックアップ。
人気No.1ドラァグクイーン・ローリの過去とこれからの物語を描く本作。作者である須田さんが2023年11月20日に自身のX(旧Twitter)に第1話「ママ」を投稿すると、2.4万以上の「いいね」が寄せられ話題に。この記事では須田翔子さんにインタビューを行い、創作の背景やこだわりについてを語ってもらった。
大都会のショークラブでNo.1ドラァグクイーンとして人気を誇るローリ。同じドラァグクイーンの同僚たちからも“ママ・ローリ”と慕われ、ローリもまた彼女たちを娘のように大切に思っていた。そんな中、ローリの元に故郷の母親の訃報が届く。
時は遡ってローリがまだ幼い頃、母親と地元の片田舎のパレードを訪れたときのこと。自分で作ったピンクのフリルのドレスを着てパレードに出たローリを、母親は「なんて恰好してるの…!?」と咎める。戸惑うローリが「僕の夢なの」と訴えるも、その言葉を聞く間もなく母はドレスを引っ張り破ってしまう。その日からローリは家族を失い、母親に二度と会わないことを決めたのだった。
そして現在、自分を捨てた母親が亡くなり、実家などの遺産が手に入ることからローリは自分の店を持つことを考えるようになる。同僚たちも自分勝手な今のオーナーの元を離れ“自分らしいパフォーマンスができる”と喜び、ローリの独立に賛同するのだった。
しかし翌日、出勤したローリをオーナーが待ち構えていた。独立の話を聞いたと言い「許すワケねーだろ」とローリ1人にだけクビを宣告すると、オーナーからギャラの上乗せを提案された同僚たちは昨日とは打って変わって黙り込む。これまで家族のように思っていたのに裏切られ、ショックを受けるローリ。その場で突然引退を宣言すると、店ごと営業停止に追い込む“仕返し”をし、店とアパートを後にするのだった。
その後、失意に暮れるローリは母親が遺した実家に立ち寄ることに。部屋でやけになってワインを飲み、眠りから目覚めると目の前に見知らぬ少年がいることに気づいて驚く。警察に通報しようとするローリに、ペパロニと名乗るその少年は涙を流しながら「あなたみたいになりたい」と言うが…。
常に自分らしさを曲げずたくましく生きるローリが、さまざまな人たちと出会いながら新しい“家族”の形を描いていく本作。また、独自の世界観を際立たせるアメコミタッチのポップな絵柄にも注目が集まり、X上では「自分なりの力で向き合うローリかっこいい!」「話に惹き込まれた」「反骨精神溢れるストーリーが良い」「ロックンロール!」「絵柄が最高に好き」「心を揺さぶられる」「“自分”を貫く難しさが良く描かれててすごい」「生きづらさを抱えている人に読んでほしい」などの多くの反響の声が寄せられている。
――『ペパロニ・ヴァンパイア』を描いたきっかけや理由があれば教えてください。
まず、「今後のマンガ家人生のために長期連載を獲得しなければいけない」というのが先にありました。ですので長期連載に耐えられるテーマが必要だったのですが、自分の中にあるものからテーマを探して描いたほうが私には向いているだろうなと考えました。
そこで『家族』や『ジェンダー』『“普通”というものへのコンプレックス』などをテーマに選びました。
――主人公であるローレンス・マクローリのキャラクターはどのようにして生み出されたのでしょうか?
前述したようにテーマを見つけたのですが、最初のうちはそれを真正面から描こうとしていませんでした。自分の深い部分をさらに掘り返すような作業は大変気が重いので、無意識に避けていたように思います。
担当さんへ最初に提出した『ペパロニ・ヴァンパイア』の草案は、タイトル、主人公の名前がローリでゲイであること、準主人公がペパロニ、の部分だけが今と同じで、他はまったく違う物語でした。ローリが本物のヴァンパイアでナイーブだったり、ペパロニが宅配ピザのバイトをしてる女の子だったり、『家族』『ジェンダー』などのテーマがエッセンス程度に入ってる、ダークファンタジーのような作品でした。
この草案はものすごく行き詰まっていたのですが、その中の打ち合わせで、担当さんから「なぜローリをゲイという設定にしたのですか?」という指摘がありました。そこで自分なりに、“エッセンス程度に入れたテーマ”について説明したら、「須田さんが本当に描きたいのってそこじゃないですか?そこをガッツリ描いた方がいいですよ!」と、後押しの言葉をいただきました。
このとき私も表面上は「なるほど~!たしかにですね~!」といったリアクションをしたのですが、心の中では「見抜かれたな…」と思っていました。
「やはり中途半端だと編集者は見抜くし、おそらく読者も見抜くだろうな」
「というか中途半端だから草案の段階で行き詰まるんだろうな」
と反省し、このテーマを真正面から描く覚悟を決めました。
その後、草案を起点に練り直し、現行とほぼ同じ物語になったのは約2年後です。その過程で、ローリ(ローレンス・マクローリ)も物語をひっぱる力強いキャラクターになっていきました。
――第1話をX(旧Twitter)に投稿後、2.4万を超える「いいね」が寄せられ話題となっています。今回の反響について、須田さんの率直なご感想をお聞かせ下さい。
投稿した当時、私のアカウントのフォロワーが約90人という状況でした。そこからたくさんの方に読んでいただけたのは、ほとんど奇跡だと思っております。読んでくださり、拡散にもご協力くださった皆様方には本当に頭が上がりません。
印象的だったご感想は、ローリの娘たち(同僚のドラァグクイーンたち)にたいして、「許せないからもっと仕返ししてほしい!」という声と「この娘たちも幸せになってほしい…」という声、正反対のご感想をいくつもいただいたことです。
ほとんど1話のためだけの脇キャラながら、印象的に描けたのかな、と嬉しく思っております。
――ステージに上がったローリのパフォーマンスやトイレでの悲哀漂う姿など、物語の中の一瞬がワンシーンとして切り取られ、大胆かつ印象的に描かれているところも本作の魅力の一つに感じました。本作の作画においてこだわっている点や「ここを見てほしい」というポイントがありましたら教えて下さい。
たくさんあるのですが、大きな魅せゴマならキャラの表情をふくめた『演出』です。映画でいうところのライティング(光の演出)を、トーンやベタでどうにか表現したくて苦労しているので、見てもらえたら嬉しいです。
細かいところだと、『棒立ちしてるキャラを描かない』ということも意識しています。コマの隅でもなにかリアクションしてることが多いです。読者さんが見つけてクスッとしてもらえる要素として大事にしています。
――須田さんが本作の中で特に思い入れのあるシーンやセリフがあれば、理由と共にお教えください。
1話の冒頭2pでしょうか。連載会議にむけて一番修正した部分です。
現在の形になったとき、担当さんから「すごくワクワクする冒頭になって、泣きそうでした!」とご連絡をいただいて、なんだかすごく「ここまで長かったなぁ…」という気持ちになったのを覚えています。
――最後に作品を楽しみにしている読者やファンの方へメッセージをお願いします。
いつもお世話になっております。まだまだ物語は始まったばかりです。これからもローリ達を見守っていただき、いつか彼らを友達のように思っていただけたら嬉しいです。
すみません、宣伝も…『ペパロニ・ヴァンパイア』はマンガボックスで連載中です。他の電子書店さんでも読めるので検索してみてください。電子単行本1~2巻が発売中です。3巻は春ごろ発売予定です。
どうぞよろしくお願い致します!
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