ユートピアとディストピア『金曜日のメタバース』/テレビお久しぶり#84

2024/01/26 19:00 配信

バラエティー コラム 連載

「テレビお久しぶり」(C)犬のかがやき

長らくテレビを見ていなかったライター・城戸さんが、TVerで見た番組を独特な視点で語る連載です。今回は『金曜日のメタバース』(毎週金曜夜0:45-1:15、テレビ朝日)をチョイス。

ユートピアとディストピア『金曜日のメタバース』


メタバースについてなんとなくの知識しか持たぬまま初鑑賞した『金曜日のメタバース』は、メタバースと、そこに根付く文化を学ぶことができる貴重な資料であった。まずメタバースが分からない方に分かりやすく説明すると、アメーバピグのようなものである。VRゴーグルを装着し、自分のアバターを操り、仮想現実を生きるわけだ。まるで映画ですかというような話だが、”メタバース”という言葉・概念自体は1992年から存在しており、ウェブサービスとして実装され、実際に人気を博してきたという歴史があるのだ。私は無知ゆえにアメーバピグしか知らず、すべての仮想空間はアメーバピグの後追いだと乱暴に認識していたのを反省したい。番組を見ても分かるとおり、メタバースというものは想像以上に浸透していて、メタバース内で着用できるファッションアイテムをデザインし販売するenu.さんという方が登場するのだが、実際のアパレル企業からスカウトを受け、メタバース内で展開されるブランドアイテムのデザインを任されているとの事なのだ。さらに、アイテムの一部は現実世界でも同様のデザインで販売され、バーチャルとリアルを橋渡しするひとつとなっている。すでに身近な存在となっているメタバース、興味のある方は是非、本編を鑑賞いただきたい。アバターにも負けない、モグライダーともしげの可愛さもひとしおである。

私は、仮想現実やアバターといった要素には素直に心躍らされるし、全人類がアバターというマスクを被ってボイスチェンジャーで会話をするというような世界になるのを望んでいるようなところがあるから、メタバースには興味津々リンリンリンである。何といってもカッコいいよね、アバターとかボイスチェンジャーって。また、この番組のように、現実の人間と、(モニタに表示された)Vtuberが同じ空間にいて、問題なく会話を広げているというのもカッコいい。スタジオにCGそのままポンと出現しているわけではなく、きっちりモニタという壁を隔てた状態で、コミュニケーションが生まれている、というのが、言葉じゃ説明できないが、言いようもなくカッコいいのである。そもそもVtuberというものが私にはカッコよく映り続けていて、明らかに心臓の動いていないあのアバターに生身の人格が詰まっているという不条理。その不条理こそがテクノロジーであり、時代の進化であるはず。電球の誕生に立ち会った人々は、その光を不条理なものと感じたに違いないからだ。

さて、全人類がアバターでコミュニケーションを取る世界もやぶさかではないと話したが、皆さんはどうだろう。それは、どことなくディストピアを感じるような世界観であるかもしれない。しかし、私は、全人類が、人工知能に管理され、感情を持たず、同じ見た目をし、同じ労働をする、ディストピアそのものの世界すら、やぶさかではないと考える節がある。もちろん実際にそうなるのは嫌だ。しかし、私の意思など除外すれば、まっとうに理にかなっていて、悪い世界でもないだろう。そうなれば、あらゆることが解決する。それこそがユートピアとも言えるのではないだろうか。自由意志によって生まれた問題が多すぎるのだ、この世は……と、まるでヴィランのような思想を自分に見出してしまうことがたまにある。朝早く起きて運動とかしよう。