台湾映画「親愛なる君へ」に見る、カタルシスを増幅させる“ミステリー手法”

2024/02/09 18:30 配信

映画 レビュー

ミステリー手法により、カタルシスを増幅


前述したように、本作の主人公・ジエンイーは家庭的で優しくて凶悪な犯人とはとても思えない人物。しかし、ジエンイーは容疑をかけられるとあっさりと罪を認めてしまう。それはなぜなのか、そこには愛する者を守りたいというジエンイーの思いが込められた深い理由があり、見るものはやがてそれを知ることになる。さらに少年ヨウユーの父であり、ジエンイーのパートナーであった男との過去も描かれていき、視聴者に衝撃的な事実も明かされ、感動の涙を誘う。

これがミステリー方式ではなく、順を追って時系列に描かれると、ジエンイーに対して当然のことのように思う視聴者もいるかもしれないし、感動は薄くなると思われる。結果を見せてから、隠されていた事実を見せられることによって、より大きなカタルシスへと導かれると言えるだろう。

親愛なる君へ」は贖罪を描いたヒューマンドラマであり、真実を後から明かすミステリー手法によって心の揺さぶりをさらに増幅させた感動作なのだ。ジエンイーが罪を認めたその真意とは、そして過去に何があったのか。その事実を知ったときに打ちのめされるような感銘を受け、涙を落とすだろう。

◆構成・文=牧島史佳