松村北斗、パニック障害を抱える役の見せ方を意識「俳優ではないからこそ、頭で考えないで演じる」<夜明けのすべて>

朝ドラでは夫婦役、上白石との共演が本作に与えた影響

――過去に夫婦役で共演したことのある上白石さんとの再タッグです。自然な掛け合いが印象的に感じましたが、過去に培ったものがあるからなのでしょうか?

あると思いましたし、上白石さんも「それが大きく作用したんじゃないか」っておっしゃっていました。考えてみれば、夫婦で最終的には死別してというのはあくまでも役の話であって、根拠も本人同士の繋がりも絆も別にないんですよね。でも、不思議な縁の濃さはあるなと今回感じました。

この作品で再会したときも、すでにお互い役のモードに入っていて、カメラが回っていなくても会話のトーンが劇中の2人と重なっていましたから。いい意味で、あと腐れがなく、すごい盛り上がるけど、まだずっと喋って盛り上がりたいかっていったらそうじゃない。盛り上がった、楽しかった、はい、みたいな関係性が心地よかったです。

――山添くんと藤沢さんが、お互いを信頼しつつも恋愛に発展しない関係性が非常に良いなと思い拝見していました。恋愛っぽくみえないように意識したことはありますか?

僕も上白石さんも意識したポイントではあるんですけど、やはり三宅さんの力がすごかったなと思いました。例えば、山添くんの部屋に夜長いこと一緒にいるシーンって、どうしてもそう見えかねないじゃないですか。当人たちは、本当になんの意識をしていなくてもちゃかそうと思えばちゃかせてしまう距離感というか。だからこそ、もうちょっと離したらどうなるか、逆にもうちょっと近づいたらどうかと細かくシミュレーションして撮影しました。

――なるほど。特に印象的だったシーンはありますか?

ポテチを最後にガアーって食べるシーンですかね。あのシーンも、どこで食べるのが1番いやらしくないかというのを何回も試行錯誤して「映画を見た人はどう思うか」ということを大事にされていました。「この瞬間もあったかもしれないけど、その前後にあった、この距離感の瞬間を撮りましょう」みたいなことも多くて。今回の絶妙な距離感は、三宅さんのチューニングあってこそだと思います。

「いい人生だった」と思えるようになった理由


――松村さんが、完成品を見ての感想を「生きづらさを描きながらも気持ちいい話だと思った」とコメントされていたのが印象的でした。具体的に、どういうところが気持ちいいと感じたのでしょう?

生きづらい世界が前提の入口のような気がするんですけど、気持ちいい世界の中で生きづらさを感じていただけだと気づくような感じ。別に生きづらい世界でも、しょうもない世界でもなくて、キレイな世界なんだけど、誰しも生きづらさがあるというだけだなと。そこに気持ち良さを感じました。

それぞれ深刻なことがあったり、そういう人たちがいる映画なのに、きっと人生においては温かいこと素敵なことのほうが多いんだろうなって思わせてくれるような。人と人の間って、瞬間的に終わるかもしれないけど“温かさ”を渡し合っているんだろうなって気付けるような温かい街の話なんだろうなと。

だから、自分の人生の振り返り方とかもちょっと変わりましたね、かなりいい人生だったんじゃないかなって、はっきりと思えるようになりました。

――原作にはないオリジナル要素もありましたが、その辺りの違いで素敵だと感じたことはありますか?

違いというよりは、映画を見終わった後と、原作を読み終わった後に受け取るものが一緒なことがいいなと思いました。これはもう空想の話になってしまうのですが、三宅さんは実写というものの捉え方がきっと、その世界を「まま」お届けすることなんだろうなと。決して一言一句、一挙手一投足同じではなくとも、あの小説から得た印象を受け取るんだなって。

すごい小さな街のふたりの話を宇宙まで飛ばすことによって、すごくちっぽけでかわいらしいものにも見えるし、空を見上げたらこの街が宇宙の一部に感じられる壮大な映画でもある。この映画を見ていると、何度も遠くに行ったり、近くに行ったりするので、奥行きがあるなと感じました。それはオリジナル要素があったからこそだなと。

――最後に、この映画を通じて届けたいことを教えてください。

個人的には、山添くんの「助けられることはある」っていうセリフから、自分の息苦しさってものを拭いたい、他の人のことなんて考えてられない一方で、どこかで誰かと助け合えるんじゃないかっていう希望感や、誰かのことを助けられることがあるって気づけました。

山添くんと藤沢さんもそういうことが、ずっと自分のなかで堂々巡りしていて。でも、そこから助け合えることに気づいたときに、どんどんいろんなものが違う巡り方をして、最終的にある程度のことは浄化されていったのかなと。それがもっと大きくなって、どんどんどんどん引いていったら、宇宙であったり星までいくような、すごくちっぽけだけど、でっかい話だなと思いました。ぜひ映画館で見ていただきたいです。

取材・文=於ありさ