福山雅治、過去と真摯に向き合い“最新こそが最良”というメッセージを体現

2024/02/06 14:48 配信

音楽 会見

「30年前のパフォーマンスよりも、今日現在のほうが絶対いい」


2023年12月31日、4年連続白組ラストとして出演した「第74回 NHK 紅白歌合戦」にまつわるエピソードをユーモラスに語って場の雰囲気を和らげると、番組でも披露した最新曲「想望」がデジタルウィークリーチャートで“一等賞”を獲得したことを報告。音楽活動で初の1位を経験した5thアルバム『Calling』(1993年)へと話題を展開し、オープニングから4曲、収録順に披露していく。

それは過去を懐かしむためでは決してない。福山が「30年前のパフォーマンスよりも、2024年1月1日、今日現在のほうが絶対いい」と信じているからだ。かつての自分が生み出した楽曲と真摯に向き合い、福山はこのライブのためにトラックを刷新して臨んでいた。

「Calling」、「All My Loving」というヒット曲群は約30年の時を経ても古びることなく、楽曲としての絶対的な強度のようなものを痛感させられた。

「Moon」では芳醇でジャジーなインタープレイに陶酔したし、恋人未満の友情関係を詩的にスケッチした「言い出せなくて…」の歌唱には、年輪を刻んだ表現者ならではの深みと説得力があった。

アーティスト・福山雅治として活動し続けてきた、影の格闘の歴史


2023年夏、日本武道館で開催したライブ「FUKUYAMA MASAHARU LIVE@NIPPON BUDOKAN 2023 言霊の幸わう夏」で夏歌を披露したのとは対照的に、「冬歌をお送りしたい」と語った福山。パフォーマンスに移る前に上映した映像には、今でこそバラードの名手として知られる福山の、影の歴史が映し出されていた。

デビュー当初はソングライティングに苦戦し、作家による提供曲に競り勝つことのできる自作曲を生み出すために技術を磨いてきた、格闘の歴史である。

“最新こそが最良”というテーゼを体現し続けるためには活動し続けなければならず、そのためにはヒットし続けることが不可欠で、失敗は決して許されない。さわやかなパブリックイメージを率先して担いながら、その裏では、常人では到底耐えられないであろう極限のプレッシャーと闘い続け、「福山雅治」というアーティストは今日までサバイブし続けてきたのである。

「福山 冬の大感謝祭 其の二十一 “LIVE A LIVE”」より※提供写真


シンプルな歌唱力で「1991年のクリスマスソング」の世界観を表現


ライブで披露するのは実に33年振りとなる「1991年のクリスマスソング」には、その存在のすごみが凝縮されていた。リリース当時披露したのは、東名阪のたった3回のライブでだけ。

歌詞は福山の手によるものではなく、いわば、まだソングライターとしての悔しさと闘っていた時代の産物だった。抑制の効いた低音でしっとりと歌い始めると、ドラマティックなメロディー展開の果て、艶やかなロングトーンに悲喜交々の感情を全て注ぎ込むようにして、高らかに歌い上げていく。

凝った演出はなく、ほぼ直立不動のシンプルな歌唱の力によって曲の世界観を表現し切るその姿は自信にあふれ、過去の物語を今の自分の筆致によって迷いなく上書きしていくたくましさを感じさせた。

続いて披露した「家族になろうよ~Winter ver.~」、「最愛」、「ヒトツボシ」という代表的な名バラード群に聞き入りながら気付いたのは、その萌芽は「1991年のクリスマスソング」に既にあった、ということ。

メロディーラインや展開に宿る固有性、言うなれば“福山節”を失うことなく、同時に、粘り強く技術を磨き続けてヒット曲へと昇華した今、満を持して原点と対峙したのが「1991年のクリスマスソング」のパフォーマンスだった。