鐘の音が響きスタートしたのは、映画「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」の主題歌「想望」。特攻隊員だった登場人物・彰に捧げるレクイエムとして生み出されたバラードで、歌詞には彰が手に入れられなかった未来を描いたという。
その未来とは、愛する人の元へと戻り共に暮らすこと。泣いて笑って、食べて眠って、といった、生きていれば当たり前の営みが列挙されている。フィクションとしてだけではなく、戦火の絶えない現実を見つめる福山の眼差しが投影され、平和が失われることへの強い危惧を感じ取ることのできる、切実なメッセージソングとして聞くべきだろう。
ステージ背後には、戦闘機の飛ぶ空、焼け野原となる地上、悲しくもその現場となってしまっている美しい地球、百合の花が埋め尽くす丘のイメージが映し出されていく。
まとっていたのは、純白のロングジャケット。それは、被爆地・長崎に生まれ育ち「長崎クスノキプロジェクト」にも取り組む福山の、平和祈念の象徴だと感じられた。言葉で多くを語ることはせず、音楽と映像、衣装も含め総合的な形で捧げられた祈りによって、本編は厳かに締め括られた。
アンコール1曲目には「炎のファイター~Carry on the fighting spirit~」を選び、「マシャ、ボンバイエ!(福山、やっちまえ!)」コールを会場に響き渡らせた。この楽曲は、ナレーションを務めた映画「アントニオ猪木をさがして」の主題歌として、アントニオ猪木の、かの有名な入場曲「炎のファイター」を新たにプロデュースしたもの。
元々プロレスファンで、18歳で上京した福山が初めて遭遇した著名人が猪木だったという縁もあり、30年以上の時を経て白羽の矢が立ったことへの喜びと興奮をあらわにしていた。ジャンルは違えど、憧れの人の原動力であった闘魂を継承し、エンターテインメントを通じて人の心を揺さぶり続けること、社会へと働き掛けていくことを高らかに宣誓するようなパフォーマンスだった。
「心 color ~a song for the wonderful year〜」では、噴出する銀テープと赤と白のバルーンが祝祭空間を彩り、新春らしい光景が広がった。メンバー全員でラインナップし手をつなぐと、「明けましておめでとう!今年もよろしくお願いします!」と福山はあいさつ。
バンドマスターである井上鑑のピアノと共に、2人だけの特別バージョンで「想望」を再度披露したのは思いがけない演出だったが、メロディーラインそのものの美しさを改めて実感させた。