児童精神科が舞台のマンガ作品『リエゾン ―こどものこころ診療所―』で描かれる、発達障害当事者の就職活動の苦しさ

2024/03/11 10:00 配信

芸能一般 コラム

『リエゾン ―こどものこころ診療所―』(ヨンチャン:原作・漫画、竹村優作:原作/講談社)

※ダ・ヴィンチWeb 2024年1月31日配信分の転載記事です。
発達障害を題材としたマンガ作品を目にする機会が増えた。発達障害と診断された当事者である作者のコミックエッセイ、自閉症の子どもを育てた経験をもとにした育児マンガなど、あらゆる作品がある。

この記事で紹介するのは、児童精神科を題材としてあらゆる人の「生きづらさ」を描く『リエゾン ―こどものこころ診療所―』(ヨンチャン:原作・漫画、竹村優作:原作/講談社)。

作品の舞台は、児童精神科、精神科、心療内科を標榜する佐山クリニック。佐山卓が院長を務めるこのクリニックには、さまざまな凸凹を抱えた人たちが訪れる。

研修医の遠野志保も、凸凹がある。時間がない時ほど些細なことが気になったり、いつも何かに追われていてミスをしたり…。結局、志保は発達障害の一種であるAD/HD(注意欠如・多動症)であると佐山に診断される。

日本で発達障害と診断された人はおよそ48万人。子どもの10人に1人は何らかの障害を抱えている可能性が高いとされている(『リエゾン』1巻#2より)。

子ども時代に発達障害と診断される人がいる一方、志保のように大人になって困りごとに直面し、初めて発達障害と診断される人もいる。志保のいとこの修一も、大人になってから診断を受けた一人。修一は大学進学後に適応障害で休学したことをきっかけに、ASD(自閉スペクトラム症)と診断を受けた。

11巻では、就職活動で「普通」を目指すがあまり、自分自身を見失ってしまう修一の姿が描かれている。発達障害の有無にかかわらず、就職活動は誰にとっても思い悩むことが多いだろう。何十社と受けても不採用ばかり、“お祈りメール”を読み「祈るくらいなら会社に入れてくれ」と毒づきたくなる。そんなしんどい時に、発達障害であることで葛藤する修一の心境はいかばかりだろうか。

久しぶりの再会を果たした修一が、志保に聞きたかったことは「子どもの時からずっと、障害者に見えていたかどうか」なのだ。この質問一つとっても、修一が非常に葛藤していたことがうかがえる。

発達障害は病気ではなく障害なので、「治る」ということはないが、本人の長所と短所を明確にし、困りごとに対して対策を講じることはできる。例えば、仕事においても、「この仕事、早めにお願いね」という頼み方だと「早め」という曖昧な指示で困惑する当事者は多い。そこを「早め」ではなく「水曜までに」「17時までに」など具体的に指示することが、対策である。

2005年の発達障害者支援法施行に伴い、各都道府県に相談窓口を設置するなど、発達障害者の就労支援は進んでいる。発達障害と診断されたことを開示することで、合理的配慮を得られるというメリットがある。ただ、開示するかしないかは当事者本人が決めることだ。

作中では、修一は「普通でありたい」と願うあまり、「開示しない」と志保に宣言する。しかし、修一はバイト先においても、就職活動においても壁にぶち当たる。「普通の仕事はできないのではないか」と悩んだ先に、修一が選んだ道とは…。本作を手に取って、修一の選択を見届けながら、誰もが抱える生きづらさに思いを馳せてみてほしい。

文=ネゴト/すぎゆう

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