何の役にもハマり、キャラクターごとに新しい表情を見せてくれるから、「松井玲奈とは何者なのだろう?」という疑問が毎度のように頭をもたげてきて、それを知りたくて出演作品が増えるごとに見たくなる。役者には「どんなキャラを演じても、結局はその人の個性がにじみ出る」というタイプも数多いが、松井は役に台本に自分を寄せて、憑依させていくタイプなのかもしれない。映画「gift」(2014年)や「めがみさま」(2017年)でタッグを組んだ宮岡太郎監督も「役が完璧に憑依していました。初めのほうのシーンは“浮遊霊”みたいに撮りたかったんですけど、お芝居が始まると同時にその場の空気が変わるような瞬間が何度もありました」と、「めがみさま」の公開当時、彼女の“憑依型演技”を称賛していた。
役者としての快進撃に引かれる最近のファンには、彼女がかつてSKE48のセンターだったことを知らない向きもあると思う。中学生の頃にテレビで見たAKB48に感銘を受け、その姉妹グループとして新設されたSKE48の第1回オーディションに合格。これが2008年のことで、2015年8月の卒業まで同グループを牽引する1人となった。
グループ時代もそつなく演技の仕事をこなし、卒業後は主に俳優として活躍。先に記した作品の他にも連続テレビ小説「まんぷく」(2018年、NHK総合ほか)や「エール」(2020年、NHK総合ほか)、単独初主演映画「幕が下りたら会いましょう」(2021年)、「よだかの片想い」(2022年)などでも存在感を示した。
「カモフラージュ」(2019年)や「累々」(2021年)といった著書では小説家としての一面も発揮、SKE時代のソロ曲「枯葉のステーション」、卒業後に松井玲奈とチャラン・ポ・ランタン名義で出した「シャボン」などでファンの方はご存知のように歌い手としての魅力もある。そろそろ音楽活動の再開も期待できるだろうか。
アイドルとして約7年間疾走し、卒業して役者に転じてから10年目に入る松井。新鮮味を保ったまま、まだまだ領域を広げていくことだろう。
◆文=原田和典
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