世界の歌姫テイラー・スウィフトが実施中の大規模世界ツアー「テイラー・スウィフト:THE ERAS TOUR」を映像化したコンサートフィルム「Taylor Swift | The Eras Tour(Taylor's Version)」(ディズニープラス)が3月15日に配信開始。劇場版で未収録だった楽曲「カーディガン」、毎公演で変わるサプライズ・ソング・コーナーでテイラーが披露したアコースティック・ソングの4曲の計5曲のパフォーマンスが追加され、コンサート映像が初めて全編収録された。今回、音楽をはじめ幅広いエンタメに精通するフリージャーナリスト・原田和典氏が本作を視聴し、同ライブの魅力を紹介する。(以下、ネタバレを含みます)
去る2月7日から10日にかけて、海外女性アーティストとしては初めてとなる東京ドーム4日連続公演を成功させたテイラー。4日間で約20万人の日本ファンを熱狂させたことになる。なお、日本では特典付き「VIPパッケージ」の一番高い部門が12万2800円(税込)、SS席が3万円(税込)という価格だが、アメリカ・アトランタ公演のフロア席のチケットは転売で最高3万5000ドル(約496万円)の値がついたというから驚きを通り越してぼうぜんだ。
コンサートフィルムの歴代興行収入ナンバーワンとなる2億6000万ドルを記録した「テイラー・スウィフト:THE ERAS TOUR」の配信版となる「Taylor Swift | The Eras Tour(Taylor's Version)」は、広さおよそ300エーカーらしい、アメリカ・ロサンゼルスのSoFiスタジアムで収録。東京ドーム約26個分の規模、しかもコンサート規模で約7万人(いろいと取っ払えば最大10万人)が収容できるという、途方もない大会場で行われたショーを、劇場版に入っていなかった5曲を含めて、約3時間+30分にパッケージしたもの。
最後の約30分は日替わりで披露された「アコースティック・セット」からのセレクションとなっている。ギター弾き語りのカントリー・シンガーとして実質的なキャリアをスタートした彼女が、ある意味変わらぬ“初心”を大観衆の前で披露したのがこのアコースティック・コーナーであろうと私は解釈した。
コンサートの一部始終を収めた本編から放たれる豪華さ、きらびやかさについてはもう圧倒されるのみ。登場しただけでファン(女性が多い印象を受けた)から歓喜の声を引き出し、一度歌い出すと即座にスタジアムを“シング・アロング”(観客も含めみんなで合唱する)の場にしてしまう強い磁力。鮮やかなダンス、フレンドリーなMC。ピアノやギター演奏への堅実なアプローチ。ダンサーの助演、あまりにも多彩な演出(ライティングも含む)、幻想的な寸劇、ドローンも含んでいるに違いない撮影テクニックなど、現代エンターテインメントの最高峰に位置するスタッフが多数関わっているのだろうなと思いながら、時間を忘れて見入った。
だが、それでいて舞台裏を映し出すような、いわば何でもかんでも見せよう的な内容にしていないのにも好感が持てる。「スターはステージ上で、観客の反応を受けた時に最も輝く。映像作品において、それ以上に何が必要だというのか」という制作スタッフの声が聞こえてくるような気がした。その分、舞台上でのテイラーの多彩な表情が、さまざまな角度から捉えられている。自らの、その時々の思いや経験を楽曲にしてきたとも伝えられる彼女だけに、そのパフォーマンスときたら、まるで1曲1曲、主人公を演じているようだ。
正直、私は「自分が英語ネイティヴであれば最大限に楽しめただろう」と思う箇所もある。が、歌声やメロディーの魅力は言葉の壁をやすやすと超え、なぜテイラーが世界を魅了するのか、憧れられるのか、それを解くカギを与える。
「THE ERAS TOUR」の「ERA(イーラ)」とは「時代」という意味。久々のツアーということもあり、これまでの活動を一種、総括するようなセットリストが組まれた。あえて言い方を変えればテイラー・スウィフトのオールタイムベストか。つまり、古参も新規ファンも共に喜べる内容である。これを見聞きして、万全の態勢で4月発売予定の最新アルバム『ザ・トーチャード・ポエッツ・デパートメント』を待つのも一興だろう。
◆文=原田和典
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