コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回紹介するのは、花影あるとさんがX(旧Twitter)上に投稿した漫画「人気モデルが病気が原因で太ってしまい『自分らしさ』を見つけるお話」だ。3月15日時点で1.3万以上のいいねがつく反響が集まり、話題となっている。今作はコミックアプリ『comipo』で配信中の「ALL BE PLUS!」第1話である。今回は作者の花影あるとさんに制作の背景を伺った。
主人公のオリナこと、大川リナは数々のファッション誌やブランドの広告など引っ張りだこの超売れっ子モデル。
しかし周りからのプレッシャーや妬みによる陰口、SNSでのコメントに悩まされ不安障害を起こしてしまった。症状を緩和させるため休養を余儀なくされるオリナ。また、飲み続ける薬には“太りやすくなる”という副作用があった。
1年後、復帰するが副作用によって太ってしまったオリナ。復帰の2か月後には大きなイベント「TLC」を控えており、オリナはファンと「早く復帰して何事もなかったようにとびきりの笑顔で、またこのランウェイを歩きます」と約束をしていた。その約束を果たすため、応援してくれているファンのために痩せようと努力する。しかし、無理してダイエットを行うオリナに待っていた結末とは……。
今作は、誰もが悩む容姿のコンプレックスを通して、“自分らしさ”を発見するストーリーだ。
実際に作品を読んだ人からは「みんなに広めたい」「応援したくなりました」「第一印象とは違った」「めちゃくちゃいい作品」「もっと知ってほしい」といった声があがっている。
今回は、作者・花影あるとさんに『ALL BE PLUS!』の制作について話を伺った。
――「人気モデルが病気が原因で太ってしまい『自分らしさ』を見つけるお話」を創作したきっかけや理由があればお教えください。
少し長くなってしまうのですが、まず簡潔にお話しいたしますと、私自身、幼少期からの容姿のコンプレックスで悩むことが多く、周りの友人やSNSでも多くの人々が体型や見た目で悩んでいるのを目にしてきました。
そんな中、プラスサイズモデルさんに出会えたことがきっかけでガラッと考え方が変わり、自分の魅力に気づき愛せたことから、着想を得ました。
私は生まれつき周りの子より体が大きく、そのせいで周りから心無い言葉を言われてしまったり、いじめられていました。
年々、容姿に対するコンプレックスは大きくなり、20代半ばまでは本当に自分の見た目が大嫌いで、恥ずかしく、一時期は「こんなに醜い姿、誰にも見られたくないから家にいたい」と思っていたほどでした。
そんな中、Vogueの動画でアメリカで大人気のアシュリーグラハムさんというプラスサイズモデルさんを知りました。その動画のテーマは「セルフラブ」。体型に悩みを持つ方が、アシュリーさんと一緒に下着姿で撮影をする動画です。
みんな色々な悩みや葛藤を持ちながらも、アシュリーさんと一緒に自分自身の魅力に気付き、心身共に開放的になってカメラの前に立つ姿が、私自身の経験と重なり、勇気をもらえて、目頭が熱くなりました。
この動画をきっかけに、少しずつ、自分の見た目の良いところを認めていこうと思いました。
この時は明確にこの漫画のテーマである「ボディポジティブ」を描きたい!とはまだ思っていなかったのですが、「私もこんなふうに読者さんの心に寄り添える漫画家になりたい」と憧れていました。
明確にこのテーマで描こう!と思ったのが、日本人初のプラスサイズモデル、桃果愛さんとの出会いでした。
ある日何気なくインスタグラムで大好きなブランド「シュウウエムラ」の投稿を見ていたら、目が離せないくらい魅力的なモデルさんが目に飛び込んできて…。ピンクのヘアスタイルに、こちらをグッと見つめる強い瞳、美しいカーヴィボディにかっこいいポージング。全部が魅力的で、まるで電気のような強い衝撃でした。
当時、担当編集さんとは全く別の作品を作る予定だったのですが、桃果さんを知った瞬間に、担当編集さんに「プラスサイズモデルさんの漫画を描きたいです!」と熱意のこもった連絡したのをよく覚えています。
制作に入る前には、お忙しい中、桃果さんにお時間をいただき、インタビューもさせていただきました。お話を伺う中で、桃果さんは「うつ病の闘病生活で体重が増えてしまった。」とお話しされていて、それが私の長年のモヤモヤをハッとさせてくださった一言でもありました。
世間では「太っている=怠けている」という考えが多くあるかと思います。私もそう言われてきた身でした。ですが、人それぞれにその体型になった事情があります。今作の『ALL BE PLUS!』の主人公:オリナのように、薬の副作用で顔が浮腫みやすくなってしまったり、代謝が悪くなってしまったり、食欲が出てしまったり。逆に、食べることが苦手な方もいたり、食べても太れないことで悩んでいる方がいたり、本当に人それぞれ様々な事情を抱えているのに、全員を同じ物差しで測ろうとするのは、ナンセンスなのではないか?と私は考えます。
そういった、見た目のことを他者がジャッジする「ルッキズム」についても、読んでくださってる方に疑問を投げかけていき、少しでも意識が変わってもらえたらと思い、この漫画を描いています。
――「人気モデルが病気が原因で太ってしまい『自分らしさ』を見つけるお話」を描くうえでこだわった点や、「ここを見てほしい」というポイントはありますか?
まず、キャラクターの表情です。『ALL BE PLUS!』の主人公:オリナは、様々な苦悩と葛藤、決心、そしてモデルとしてランウェイに立つ表情と、様々な場面で表情が変わるキャラクターです。
モデルさんですので、洋服やブランドの雰囲気にも合わせて表情をガラッと変えることもあります。レイという、オリナのライバルにあたるキャラクターは普段はツン…としたクールな印象なのですが、ふとしたときにギャップも見えるキャラクターなので、そこも魅力的に描けるように表情には特に気をつけています。
作画ではプラスサイズモデルさんの美しいカーヴィボディの部分やファッションにもかなりこだわって描いています。カーヴィボディに関しては、骨格から意識して、様々なプラスサイズモデルさんのお写真を参考にさせていただきながら、描いています。
今作では、たくさんのプラスサイズモデルさんはもちろん、国籍、性別、ルーツ関係なく様々なキャラクターが登場しますので、その描き分けにもとてもこだわりました。
ファッションに関しては、参考にしているファッション誌やブランドからヒントを得て、自分でデザインを描き起こしたりしています。これが毎話、結構大変な作業なのですが、「このキャラクターなら、この服が似合いそう!その素材でこの丈はどうかな?」と、着せ替えをしているような感覚もあり、大変な反面とても楽しい部分でもあります。
ストーリーの面では二つ注目してもらいたい部分があります。
一つ目はキャラクター同士の関係性です。オリナはプラスサイズモデルになってから、より様々な人と信頼関係を築いていくのですが、そこの周りの人々との関係性にもぜひ注目してもらいたいです。
ずっと変わらず応援してくれるマネージャーの安田さん、オリナをプラスサイズモデルの道へ導いてくれたケイさん、自分自身もコンプレックスを抱えるカメラマンの後藤くん。プラスサイズモデルの仲間たち。そして先程もお話しした、オリナのライバルでもあるレイ…
オリナがプラスサイズモデルに転身したことで、どう絆が結ばれていくのかも丁寧に描いていったので、ぜひ注目してもらいたいです。
二つ目は、大きなテーマでもある「プラス」な部分です。オリナは何度も辛いことが重なり、心身ともに倒れてしまうのですが、ですがその分、何度でも立ち上がることができます。その真の強さや、美しさにも注目してもらい、もし読者さんに何か辛いことがあった時のヒントになれたら、とても嬉しいと思っております。
――今作が1話として収録されている単行本『ALL BE PLUS!』の見所やお気に入りのシーンなどあればお教えください。
毎話見どころがたくさんあるのですが、特に1話と3話は欠かせないポイントだと思います。
1話では、どんなに努力しても痩せられない自分のやるせなさや、言うことを聞いてくれない体・健康の事情に苛立ち、最後の最後にオリナの感情がブワッと溢れてしまうシーンが見どころです。
主人公のオリナはすごくエレガントで心が本当に優しく誠実なキャラクターなのですが、そういったキャラクターだからこそ、感情が堰き止められない瞬間は見ているこちらも胸が苦しく、
このシーンを描いている時、私自身も泣きながら描いたのを覚えています。
もう一つは3話の「マイナスな気持ちと向き合い、寄り添い、戦い、全てプラスに跳ね返していく…それがプラスサイズモデルだから」というケイのセリフとともに、プラスサイズモデルさんのウォーキングを見てオリナがプラスサイズモデルとして新たな一歩を踏み出すシーンです。
先ほどお話しした桃果愛さんがインスタグラムで「歩き方を見たら今までやってきたことの全てがわかる」と投稿されていたことがあり、そこからこのシーンのヒントになりました。
桃果さんをはじめ、様々なモデルさん方の歩き方を見ていて、歩き方にはそれぞれ個性があることに気づきました。
どんな歩き方でも、自分の足では歩くことが難しい方でも、前を向いて胸を張って進んでいく姿が、この漫画のテーマである「プラス」にリンクしてとても良いシーンになったと思います。
――花影あるとさんが漫画を描く上で大切にしていることがあればお教えください。
一言で言うと、「愛情」です。
まずは、読者さんの心に寄り添うことを、大事にしています。私の漫画ではキャラクターがあらゆる葛藤をし、それを乗り越えていく…というシーンが多いのですが、読者さんも一緒になって応援してくださったり、キャラクターにとても共感してくださり「勇気をもらえた」「背中を押してもらえた」と仰っていただけたときに、とても嬉しく思いました。
それと、キャラクターへの愛も強いので、しっかりと魅力を出せるように作画では細部までこだわって描いています。髪の質感やメイクの仕方、ネイルまでなるべく描き、キャラクターの個性も引き出せるように意識しています。
今作の『ALL BE PLUS!』では、プラスサイズモデルさんの魅力でもあるカーヴィボディをリアルタッチで表現したり、服の質感まで表現できるようにシワの研究やベタ・トーンの削り方など、一コマ一コマ力を入れております。
キャラクターの「感情」を現す表情も、そのときのキャラクターの感情と同じ気持ちで描くことで、より鮮明にキャラの表情が描けると思っています。
そして、愛を守るためにはあらゆることを学び、知る必要があると私は考えています。私はレズビアンでセクシャルマイノリティなのですが、マイノリティ差別だけではなく、人種やジェンダー、障がいを持つ方々や、今作で投げかけているルッキズムに関してなど、あらゆる差別や偏見についてしっかり学び、漫画の中でも取り入れていきたいと考えています。
どんなことでも取りこぼさないように、リスペクトの気持ちを忘れず、私がその時込められる精一杯の愛情を、原稿用紙に込めています。
――花影あるとさんの今後の展望や目標をお教えください。
私はまだまだ新人なので、まずは目の前にあることに誠実に真摯に向き合い、精一杯努力を重ねたいと思っております。
もしできるのならば…紙の本になった単行本を、日頃応援してくださっている読者さんに、サインや感謝の気持ちをお伝えしながら手渡しでお届けしたいなぁと考えております。私の読者さんは有難いことに、国内外にいらっしゃるので、海外の方にもぜひそうしたいと常日頃考えております。
それと、キャラクターひとりひとりに思い入れも強いので、声優さんや役者さんが演じてくださったらこのキャラクターはどうなるだろう…!と胸を膨らませたりすることもよくあります。
他にもやりたいことや夢はたくさんあるのですが、それが叶ったら1番に、私のことをずっと応援してくれていた、天国にいる祖母に報告したいなぁと考えています。
そして何より、世界中の方々に、私の漫画を読んでくださったことで、日常の中で思い出して、少しでも勇気が持てたり、心があたたまってくださったら、漫画家としてこれ以上の幸せはないと思っております。
――最後に花影あるとさんの作品を楽しみにしている読者へメッセージをお願いします。
いつも情熱的に、優しく、愛を込めて応援してくださり、本当に、本当にありがとうございます。漫画を描くことは正直、とても大変です。魂を削って描いてると日々実感しております。
ですが、読者さんに「読んだよ」「面白かったよ」と言っていただけるだけで、本当に気持ちが前向きになって、今日もこうして筆を持つことができます。
言葉で言い表せないくらい、いつも感謝しております。本当にありがとうございます。
これからも素敵な作品が届けられるように、そして作品で、皆さんへの恩返しができるように、
日々頑張って参りますので、今後とも応援のほど是非よろしくお願いいたします!
Thank you for supporting me, always.
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