コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、月刊コミックゼロサムで連載中の『彼に依頼してはいけません』(一迅社)から探偵がメイド喫茶に潜入し、ネットで話題の”夢“に関する奇妙な噂について探っていく『メイド服着てチェキる探偵』をピックアップ。
作者の雪広うたこさんが2月1日に本作をX(旧Twitter)に投稿したところ反響を呼び、5500件を超える「いいね」が寄せられ話題を集めている。この記事では、作者・雪広うたこさんにインタビューを行い、創作の裏側やこだわりについて語ってもらった。
メイドボーイ喫茶「Pilgrim」に行くと悪夢を見るという噂が広がっていた。客の中でも店に行って悪夢が見れるかどうか挑戦する「悪魔チャレンジ」が流行っている。
“エンパス”という他人の感情を自分のことのように感じ取れる力を持つ主人公・鏡キズナ(かがみきずな)は探偵の仕事をしている。
今、「Pilgrim」のマネージャーから「メイド服を着てチェキる仕事」を依頼されている。状況がつかめない、鏡のパートナー・御堂眞矢(みどうまや)のためにも改めて説明する。「悪魔チャレンジ」がSNSで流行し、それにのっかる客が増え、店の雰囲気が壊れて常連が離れるなど困っている。そのため早々に悪夢の原因を探り、この奇妙な流行を終わらせたいとのことだ。
鏡と御堂はメイド服を着て、チェキ撮影会に出る。鏡と御堂の2人だけでは威圧感があると依頼人に言われたため、かわいらしい容姿のアッキーも呼んだ。
客の対応をしていると、悪夢をみた報告をしてくる客が多い様子だった。そこに1人の勝手に知識を披露するマンスプ(マンスプレイニング)おじさんが現れる。おじさん曰く、悪夢チャレンジは思い込みが招いた結果ではないか、と。チェキも頼んでいないのに、語り続けるおじさんに嫌気がさしたアッキーは、お勤めがあるのでとその場をあとにしようとするとおじさんが「THIS MAN」のパターンもあるとこぼす。「THIS MAN」とはみんなが同じ奇妙な男の夢を見るそんな悪夢みたいな話のこと。10年以上前にネットで起こった騒動で、今回の悪夢チャレンジに経緯が似ている。
結局その噂はいろんな説が出回った結果、どれも確証のないまま終わった。誰かが意図的に狙って書いたデマなのか、思い込みでみんなが悪夢を見てしまったのか…。どちらにせよ憶測では依頼人を納得させられない。そこで、アッキーに「ガチャ天井まで引けます券」と引き換えに悪夢を見た人の統計を取ってもらうよう頼むが――。
180cmを超える迫力ある探偵兼メイドたちに「麗しカッコいい」「ニヤニヤ止まらん」との声が。最後の展開には「つられちゃうのかわいい」と反響を得ている。
――『彼に依頼してはいけません』を創作したきっかけをお教えください。
まだエンパシーという言葉がこれほど浸透する前、特殊能力ものの探偵バディでなにかいいアイデアはないかと模索していると、ふとエンパスという文字が目に飛び込んできました。
シンパシーという言葉は耳馴染がありましたが、エンパスってなに?どう違うの?というところから始まり、調べていくうちにこの『エンパシー(共感力)』というワードはこれからの社会にとって必要不可欠な存在になるんじゃないかと感じたんですね。
というのも、シンパシーは自身と重なる部分に共感を得るものであって、エンパシーは異なる価値観や考え方を持つ相手であっても、相手の気持ちを汲んで想像し思考することを意味するからです。
SNSによって今まで可視化されてこなかった様々な人々の思考が今や洪水のように流れてきます。
知らない価値観、相容れない思考。それらと対峙した時どう対処したらいいのか…
その答えが「エンパシー」にあるんじゃないかと思い至りました。
多種多様な依頼人と真の解決を目指して心を解きほぐしていくストーリーに、心優しく繊細で一見頼りなさげなエンパスである探偵というアイデアがガッチリ自分の中でハマった瞬間でした。
元々特殊能力ありきだったので、より共感能力を高めた設定にしてエンタメ性を盛り込み、助手は不安定な主人公のストッパーとなるメンタル強者を添えて、阿吽の凸凹バディものとして作り上げました。
――今回話題を呼んだお話の「悪夢を見る話」「メイドのコンセプトカフェ」という舞台などの発想はどのようなところからくるのでしょうか。
昔から色んなコスプレが楽しめるエンタメ潜入捜査物が好きなので、潜入したら楽しそう、華やか、流行の題材などを基準にして選んでいます。
男性のメイドカフェ衣装は一部界隈で人気のモチーフなので、旬の内に私も描いてみたいという思いと、ちょうどメンズコンセプトカフェが社会問題になっているのもあり、モグリの探偵らしく正規では扱いづらい面にも触れられる要素があるといった点で選びました。
また、都市伝説的なミステリーが加わると更に話が膨らむので、日頃から様々な種類のトピックに目を通して、面白そうな題材があればメモを取ってストックしています。
今回の悪夢の話もまず悪夢の真相自体ニュースサイトで話題になったことがあり、そこから悪夢につながる興味深い過去の事例はないか探して…と連想ゲームのように繋げて作っていきました。
――今回のお話に出てくるキャラクターへのこだわりがございましたら、お教えください。
元々男装の麗人的なキャラクターをいつか出したいと思っていて、その設定だけ漠然とある状態でした。ただ東雲というキャラクターを考えていくうちに、異性装よりは、ジェンダー規範に囚われない人物の方がより現代を捉えた物語にできるかなと思い、今の形になりました。
なのでどちらかのジェンダーに極端に振れるような口調や態度には気をつけました。
同じ異性装が絡むお話として、第一部のマルタイは承認欲求に振り回され女装にハマり孤立してしまった人物でしたが、第二部では相互理解のために傷つき、泥沼化して分断してしまうよりも、距離を図りながらも共存できるよう自ら行動するキャラクター像になったので、私自身物事の捉え方が少しずつ変化していっているなと実感する象徴的なキャラになったと思います。
――『彼に依頼してはいけません』のお話の中で、特に気に入っているお話やセリフ・シーンなどございましたら、お教えください。
各回少し風味が違うように作っているので、それぞれ気に入っているんですが、ボクサー編はコスプレやアクションなど派手な演出が多くて個人的には好きですね。あと、謎解き要素も考えるのが楽しかったので、WIZLAND編も思い入れがあります。
東京タワーの階段を何秒で走り切れるかとか、調べると実際にチャレンジされている動画があったりするんですよね。なのでタイムリミットもリアルに走りきれる可能性を考えて算出しました。
台詞は眞矢の「オレを見ろ」「オレを信じろ」「オレを感じろ」「オレを受け入れろ」これが二人の主題にもなるので今後も大事にしていきたいなと思ってます。シーンはとしては、5巻22話の、感情に流されて溺れているキズナを救い出す眞矢の場面が二人の危うさと強さを同時に描けたので満足しています。
――今後の展望や目標をお教えください。
お陰様でポップアップショップやカフェなど様々な展開を実施いただけて、本当に有難いことこの上ないのですが、もっともっとたくさんの方にこの作品を見知ってもらえたらなと思っているので、SNSをしっかり活用して積極的に自分から発信していけたらなと思っています。
現在、作画動画などは定期的にあげているので、今は小ネタをアップしたり、Live2Dで何かできないかなと考えています。
ただ、実際はやりたいことリストだけ増えているので…ちゃんと形にしていかないとですよね。がんばります!
――最後に楽しみにしている読者やフォロワーさんへメッセージをお願いいたします。
「彼に依頼してはいけません」を応援してくださっている読者の皆様、いつも本当に有難うございます。
作品を楽しんでもらえている様子を伺うたびに、私自身この仕事をもっと頑張ろう、もっといいものを作ろうと心から励まされています。
連載もとうとう6年目に差し掛かりました。
ようやくバディの関係にひと変化が起きたところなので、ここから又最後まで思い残すことなく描き切れるよう頭をこねくり回して奮闘したいと思います。
読者の皆様の声一つ一つが創作魂に火をつける最高火力の原動力となっております。
どうぞこれからも応援いただけたら嬉しいです!
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