コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョンマンガ部」。今回は、文化祭の準備に奮闘するクラスを描いた物語『行きつけの店の店員さんを接客してしまう漫画』をピックアップ。作者である漫画家の梵辛さんが、2024月2月10日に本作をX(旧Twitter)に投稿したところ、3.3万件を超える「いいね」や反響が多数寄せられた。本記事では梵辛さんにインタビューを行い、創作の裏側やこだわりについて語ってもらった。
本作は、著者X等で連載中の『くちべた食堂(BEAM COMIX)』の第73話にあたるエピソード。柳凛が担任をしている1年2組では、文化祭の出し物をどうするかの話し合いが行われていた。生徒たちからは、「リゾートっぽいカフェ」「立食形式ビュッフェ」「将棋カフェ」「パネルと着ぐるみで記念撮影」など色々な案が出揃う。
そこで、お互いの案についての印象を凛がたずねるのだが、「許可が降りない」「採算が合わない」「ノリが合わない」となかなか意見が合わない…。
文化祭の出し物は、他のクラスとは被らないようにするのが暗黙のルール。1年3組の担任を務めるフジワラ先生に何を出店するか聞いていた凛は、「お隣の3組は『オバケ屋敷になりそう』」と生徒に伝える。
すると、生徒たちからは「…あえてかぶせよう、オバケ屋敷を!!」とまさかの提案が。戸惑う凛をよそに、すっかり賛成ムードのクラスメイトたち。その結果、凛のクラスもオバケ屋敷をすることになるのだった――。
3組は田中美鶴を筆頭に美術部員たちが率先し、オバケ屋敷の準備を着々と進めていた。張り切って準備を進める3組の姿を見て、「隣のクラスが思った以上にガチすぎる。これ勝負にならないかも……!!」と危機を感じ始め、凛に助けを求めてやってきた2組の生徒たち。
その日の夜、凛は行きつけのお店「くちなし」で考えを巡らせるが、なかなか名案が思い浮かばない。そんな凛を見た店員さんが、最近入荷した甘くて美味しいトマトで作ったトマトジュースを出してくれる。そのトマトジュースを飲んだ瞬間、凛はあることを思いついて――。
実際に物語を読んだ人からは「柳先生がかわいい」「面白い」「ガチ対決しなくてよかった」「はぁ好き」「得意分野の良いとこ取りが最高」「この文化祭行きたすぎる」など反響の声が上がっている。
――『行きつけの店の店員さんを接客してしまう漫画』を創作したきっかけや理由があればお教えください。
本作は、連載漫画『くちべた食堂』の単行本4巻で、一番の長編にあたるお話です。この漫画シリーズは一般的なジャンル分けとしては「ごはん漫画」にカテゴライズされるのですが、実際のところは一番重要なテーマとして「キャラクターの居場所」のことを描いています。主人公のヤナギ先生は学校の教師として一日中仕事をしていますが、忙しさから心身に余裕がなく、心から落ち着ける場所が少ない。そんな折にふと恐る恐る通い始めたお昼ご飯のお店が少しずつ自分の新しい居場所になっていく、というストーリーです。お店の店員「くちなしさん」の方からすれば、誰かの居場所になってほしくて一生懸命やっているお店にお客さんが来てくれて嬉しいという形です。
ここまでが前置きなのですが、上記の構図を一度反転させたお話をやりたかった、というのが今回の記事でのお話の趣旨です。「ヤナギ先生」の日頃の居場所である学校を舞台に、いつもと反対にお客として訪れた「くちなしさん」を受け入れておもてなしをする。コメディ漫画として見ると、単純に学校の教室に突然いつものお店の店員さんが現れてビックリするというユーモアのシーンなのですが、もう少し深い部分としては、「お互いの普段の居場所でお互いを受け入れた」という人間関係を描くことで、主人公2人の心の距離がまた少し縮まったら良いなというエピソードです。
――本エピソードでは、文化祭の出し物を決めるシーンが非常に印象的でした。本作を描いたうえで「こだわった点」あるいは「ここに注目してほしい!」というポイントがあればお教えください
ストーリー漫画の構造として今回のお話を整理すると、
1.サブキャラクターの生徒たちがそれぞれ自由にアイデアを出す
2.それらをまとめて決まった方針について、主人公Bの「店員さん」がアドバイスをする
3.2を受けて、主人公Aのヤナギ先生が新しいアイデアを出して生徒たちをまとめる
4.全てのキャラクターが楽しく仲良く文化祭を終えることができる
という流れにおおまかになります。ストーリーを組み立てていく情報や要素をサブキャラクターがどんどん出していって、最後は主人公たちが良い感じにまとめる活躍をしてお話が良い感じにまとまるという形です。この構図をしっかり固めつつも、全てのキャラクターが自分の性格に則り自由に行動した結果、バラバラのピースがいつの間にか組みあがっていったような印象の漫画になるように頑張って描いたのがこだわった点だと思います。
――本エピソードの中で、特に気に入っているシーンやセリフがあれば、理由と共にお教えください。
ヤナギ先生がちぎったゴミ袋を全身にかぶって「地獄の冥王コーデ」とテロップがついてるシーンです。この時点では先生はまだ本格的に文化祭の準備に参加するつもりはなかったのですが、軽い親切心で一緒に考えようとしたところ、生徒たちから真剣さの足りなさを叱られるという、ちょっとかわいそうでかわいい場面が描きたかったシーンです。
――普段作品のストーリーはどのようなところから着想を得ているのでしょうか。
自分自身が漫画家・イラストレーターとして作業場に閉じこもっているとだんだん他に新しい自分の居場所が欲しくなってくるという気持ちがありまして、そういった感情を飲食店でのやり取りに置き換えて色々想像を膨らませて描いている部分はあると思います。飲食店ネタの場合は単純に自分が飲食店に通っている時にあったことだったり、お店側のネタの場合は自分がコミケなどに出展側で参加した時に起こったことがモチーフになってお話を作ったこともあります。
――梵辛さんの作品は、それぞれの人物描写やストーリー展開にこだわりが感じられますが、実際に作画を行う際、こだわっていることや特に意識していることはありますか。
この作品のシリーズの一番大きなテーマとして「距離感」を描くというのがあります。社会人同士の距離感、高校生同士の距離感、大学生同士の距離感、社会人と学生の距離感、さまざまな人間関係ごとに少しずつ距離感のニュアンスは変化します。これをそれぞれ描いていきつつも、徐々に変化させていくことを描くのが楽しいです。
――今後の展望や目標をお教えください。
現在この漫画のシリーズ単行本1巻が5月頃で、最新4巻でだいたい10月末の秋前半までという感じです。引き続き季節を徐々に進めていきながら、冬編、春編までを描き切るのが当面の目標ということになります。そこから「2年目編」をスタートさせられたら良いなと思っています。そうやって本編を充実させていきつつ、書籍やSNSや出版社などそれぞれで盛り上げていく施策ができれば嬉しいなと思っております。
――作品を楽しみにしている読者へメッセージをお願いします!
今後ストーリーが進んで作中で季節がいくつも過ぎた頃にキャラクターは何を思うのか、何が起こるのか、決めていることとまだ決めてないことがありますが、それぞれのキャラクターの人生が少しずつ進んでいく中で読者の皆さんにも温かくて柔らかい何かふわふわしたものを受け取ってもらうことができたら良いなと思っております。
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