――ジャッキー・チェン出演作の中で一番好きな作品は何ですか?
「ドランクモンキー 酔拳」です。傑作です。これは私が教えてあげたほうがいいと思うんですが、「酔拳」の中にとても大事な要素があるんですけどジャッキーさんは気づいてないんですよ。
――それは何ですか?
ジャッキー・チェンに憧れて、「刑事物語」をやりながら、先生モノをやった武田鉄矢しか言えないことなんですけど、ジャッキー・チェンがやった“道場の不良息子”と酔拳の使い手の達人がいます。あれは日本が理想とする師弟関係なんです。これは何かというと、ジャッキーは最初、酔拳の達人だと思って弟子入りしますが、付き合っていくうちに師匠のことを酔拳の達人ではなく、ただの“アル中”じゃないかって思っちゃうんですよ。それで彼は脱出することだけを考えるようになるんですが、実はこれが教育の「奥義」なんです。教育の一番奥にあるものは、師と慕うその人は人間のクズかもしれない、ということなんですよ。そう見たら、確かにクズなんです!酒が切れると手が震えるんです。師がクズ人間に思えることがある。それでも尚、この人を“師”と呼ぶことが出来た時に奥義が、極意が流れ込むんです。奥義は“人生の最高の心理”を伝えてもらえるんですよ。一度はバカにされるけれど、二度目は「この人はすごい!」と思わせる。これによって理想的な師弟関係が築かれます。そういうものなんです、教育ってものは。
――ジャッキー・チェンさんにお会いしたことは?
九州で開催された「アジア太平洋映画祭」(1993年)で一度お会いしました。遠目でお目にかかったのですが、そこで奇跡が起きました。ジャッキーさんの方から大きな声で「武田さーん!」と声をかけてくれたんです。
――えぇ!
「あれ? 俺のこと、知ってるんだ!?」って思ったら、何やら身振りをしてるんです。ハンガーを使ったアクションのマネですよ。たぶん身近なスタッフの方が「あなたのマネをしてる日本のコメディアンがいる。そいつが愉快なことにハンガーを回してるんだ」って伝えたんでしょうね(笑)。真相は分かりませんが、知っていてくれたことに感激しました。
――今回、BS松竹東急でジャッキー・チェンさんの作品が声優・石丸博也さんの吹替版で放送されますが、どんなところに吹替版の魅力を感じていますか?
石丸さんの吹替は本当にお見事だと思います。私も最初に映画館で観た時は吹替版でした。そういう意味でも、最初のジャッキー・チェンの印象は石丸さんの声の印象と重なっていますし、今回、吹替版で放送されるというのも楽しみです。東映さんもブルース・リーの大ブームの中、ジャッキー・チェンに対しても大きな期待をしていたと思うんです。「これは当たる!」と。「ドランクモンキー 酔拳」の挿入歌が日本のグループの曲でした。日本語に全部置き換えて歌ってるんですけど、これが映画にうまくハマっていました。
――日本語吹替版の放送で、どういうところに注目して見るとより楽しめそうですか?
ジャッキーのアクションにかける変遷みたいなものを感じていただきたいですね。ロープを使って人を飛ばすことも途中から盛り込んできます。殴られたら何メートルも吹っ飛んだりする見せ方ですね。それを使うかどうか、迷った時期もあったと思うんです。そういう変化を見つけるのも楽しいと思います。あと、ジャッキーのかっこいいシーンもいいんですが、ジャッキーがやられる姿が、派手な作品の中にもジャッキーの本質が見えるんじゃないかと思っています。
◆取材・文=田中隆信
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