美大在学中から音楽活動をスタートしたシンガーソングライター・小林私が、彼自身の日常やアート・本のことから短編小説など、さまざまな「私事」をつづります。今回は、夢、目標、やりたいことなどについて考えたエッセイです。
===
同年代の友人から出る話題が、例えば積み立てNISA、老後二千万、家は借りるより買った方が、などといった現実的な問題にシフトしてきた。
片や俺は来年のポケモンのことしか考えていない。あとはユナイトのレート、効率的なビルド。
何がこうも違うのかというと、職業の問題だけではないような気がしている。ミュージシャンというのは一般的にはもうカスのような商売で、少なくとも地元じゃ褒められない。地域の新聞には載らない。
このような職業に就いているから世間の問題意識と乖離するのだ、と言われてしまえばそれまでだが、俺はプロのミュージシャンを目指して先の見えないところへ果敢に飛び込んでいった勇気と無謀の持ち主ではなく、ただ流れるまま定義的なプロになっただけだ。
未来への焦燥感は、目指す理想像と現在との幅に起因する。俺には理想像がない。小さい頃の夢は覚えている限りの最後は「売れない漫画家」、その前は「不老不死」、最初は「ラティオスとラティアス」だった。当時を振り返ってもまるで目指していないし、今にして思えば大喜利的な振る舞いだった。
大きな舞台に立ちたい、音源で爆発的に売れたい、人気者になってむしろ困りたい、技術を向上させたい、あるいは何かへの反抗、どれも俺には欠如している。
音楽を作るのは趣味であり、中学生の頃の俺に笑ってほしいからであり、それが使命だからである。俺は自分の人生について物心ついた時から根拠のない確信がある。
夢も無く、目標も無く、だから不安も無い。
強いて挙げるとすれば「早く実家から出なければ」「家族と縁を切らねば」という衝動だけ。それさえ叶ってしまったのだから、もう俺の人生は結構いい感じだ。
ただ、このような欠如があるとなんだかんだ困ることもある。チームと目指すものがなかったり、友人と不安を共有したりがない。だから作ろう。ワンマンでやったラジオコーナーや「長い一日」や「小林私の五日間」も打ち合せ段階で何かやるとすれば、と考えたものの集合体だ。
正直不安を作るのは難しい。ダメ元で生きているからだ。そもそも自分の願いは届かないものとして生きるのは、これはまあ、第一子の長男長女にありがちな考え方だろうが。
さて本題に入ると、俺が何をしたいかだ。
そもそも何にもしたくないというのは一旦置いておく。人生はやりたくないことの中からマシなことを選ぶだけ。ならばせめてワクワクすることを考えるのだ。
ただ曲書いて歌っとるだけでええだろ、とはTOKONA-Xがもう言ってくれてることだし。
演者が最初から最後まで何かに怯えているライブ。
「油断してると来るんですよ、大きくて黒い何かが来るんです...ヒィッ」
としきりに言うだけ。不快感が凄い。それも感動と言いたい。終わった後に「なんかやだったねー」って言いたい。
句会でいう兼題を用意して色んなミュージシャンで曲を持ち寄りたい。
テーマは最寄り駅、あるいは地元の駅について。サブスクとかでずらっと駅名が並んだら壮観だと思う。音楽ジャンルもバラバラがいい。都会の駅から聞いたこともない田舎駅まで、俺も「武蔵五日市駅」を持ち込む。
もう一つ考えてるテーマは「川」。
俺の地元は秋川渓谷の上流の方なので、川と言えば「上から下に落ちる」イメージなのだが、下流の人からしたら「穏やかに横に流れる」イメージなのでは?もしくはドブ川、それかコンクリートで固められているのか、田畑に引かれているのか、様々な解釈違いがあるのでは?と気付き、じゃあ川でも作ったら面白そうだよね。
ライブの良い感じのところになったら会場で玉ねぎの成分を噴霧する。で、ちょっと冷房も下げて鳥肌も立たせる。
凄い面白いと昔思ってたけど「10150051/タニア・ブルゲラ」という作品の形態がほぼ被ってた。
後ろから歌が聞こえてたら面白い。「みんな見えてるよー!」って言いたい。
会場にいるお客さんと後から来たお客さんと鉢合わせるのが気まずそうだから没になった。
タイトルそのまま。最低31日分ある名言カレンダーをいっぱい調べて雑魚名言が最も多い日を探す。音楽とは一切関係ない。
絶対に面白い。ステージに立って人前でのうのうと歌える現状を疑ってほしい。逆も然り。
これはなんですか?
これは一案で、肉体的にしんどい状況下で見る・演奏する空間でライブしたら凄そう。
盛り上げたいと悲しませたくないのジレンマでパフォーマンスをしてほしい。
本当に大人に打診したことがあるアイデア。笑ってたけど通らなかった。
後半にかけてどんどん面白くなくなっていくことに途中で気付いて、没。
これは本当に一回やった。最高に面白かった。読書していたり絵を描いていたりダーツしたりと色々やってもらった。映像を後から見てめちゃくちゃ面白くて、そこで満足してどこにもアップロードしていない。
当時は無観客でやったので観客有りでもう一度やるべきとは思っている。
いかがでしたか?
俺がこんなものを考えている間に同級生たちは凄く頑張っています。
毎朝起きています。車や家や、ペットを飼っています。
そして地元の新聞に載っていますし、あるいはその記事を書いています。
俺も頑張っていないことはありませんが、相対評価で一番頑張っていません。
それでもなんと、構いません。
この記事の関連情報はこちら(WEBサイト ザテレビジョン)