是枝裕和監督の「ベイビー・ブローカー」(2022年)では、赤ちゃんを連れ去って違法な養子縁組をあっせんするブローカー・サンヒョン役。やっていることは人でなしだが、赤ちゃんをあやす表情や子どもとの無邪気なやりとりなどガンホの肩の力が抜けた愛すべきキャラクター造形が魅力的で、作品の救いにもなっている。この作品で彼は「第75回カンヌ国際映画祭」で韓国俳優として初となる最優秀男優賞を受賞。そのニュースは世界を駆け巡った。
時に情熱的、時にユーモラスにキャラクターの本質を体現し、役そのものとして作品に存在する姿こそ、俳優ソン・ガンホの真骨頂だ。
「サムシクおじさん」で演じるのは、人々に“サムシクおじさん”と呼ばれ、頼られる謎めいた政治フィクサー、パク・ドゥチル。配信中の1~5話でも、若き理想主義者キム・サンの演説に心奪われるシーンや、政界の大物と命のかかったきわどいやりとりをする緊張感あふれるシーンなど、言葉以上に“顔”で、多くのことを語っている。
「サムシクおじさん」の会見でも、記者からの「ある映画監督が、ソン・ガンホは“顔を映すだけでそのシーンが成立する俳優だ”と言っていますが、このドラマではどうでしたか?」という質問に、シン・ヨンシク監督が「以前、映画でご一緒してから『この表情、使いたいな』という想像をすごくしていました。この作品は普段とは違い、彼への“あて書き”です。数年間ソンさんと頻繁に会って、私の脳裏に刻まれてきた『描きたい』と思ったイメージを投影しながら台本を書きました」とコメント。ガンホが“撮りたくなる顔”を持った俳優であることが、このやりとりからもよく分かる。
役そのものとして画面の中に存在し、“顔”つまり表情でシーンを成立させる俳優。演出する側に、一瞬一瞬の表情を“使いたい”と思わせる魅力を持つ俳優。それが、世界的俳優ソン・ガンホだ。
「サムシクおじさん」は、そんな彼が選んだ初めてのドラマ作品。会見では「ドラマならではの表現の度合いが分からなくて。カットのたびに『これはちょっとやり過ぎなんじゃないか』とか、適正なさじ加減を共演者にたくさん聞きました」と、苦労したことも打ち明けている。ドラマ出演という新たな挑戦をした今回、果たしてガンホはどんな“顔”を見せてくれるのだろうか。
「サムシクおじさん」(全16話/毎週水曜に2話ずつ、最終週3話配信)は5話まで配信中。続く第6、7話は5月22日(水)に配信される。
◆文=ザテレビジョンドラマ部
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