倉沢杏菜、「野間口徹が憑依した」と言われる演技は、目線や行動観察から<VRおじさんの初恋>

吉田監督のアドバイス「お芝居が止まってもいいからチャレンジしてみる」

倉沢杏菜撮影=丹野 雄二


――演出の吉田監督からのアドバイスはありましたか?

吉田監督からは、毎シーンごとに気持ちをリセットすることを教えて頂いたり、「思ったことを包み隠さず出してみて」とアドバイスしていただきました。また、「お芝居をするなかで、何かと完結させようとしがち。失敗しちゃいけないと思ってしまうこともあるが、お芝居が止まってもいいからチャレンジしてみるべき。」と教えて頂いたり、OKテイクとNGテイクがあったとき、「何が違って、どこが良かったのかを覚えておくことが大事」というアドバイスもいただきました。

今思うと、吉田監督のアドバイス通り、頭の中を空にしてチャレンジした時に、OKテイクをいただけていた気がします。ナオキとしての現場での経験を振り返ると、芝居として同じことを繰り返すのではなく、例えば、”足がしっかり地に着いていた”、”相手をしっかり見ていた”など、感覚的なことを念頭に置きながら取り組むことが大事だと実感しました。

制作スタッフ皆さんの愛が溢れている現場でした

倉沢杏菜撮影=丹野 雄二


――ナオキのラストシーンはいかがでしたか?

角度を変えてたくさん撮っているなかで、始めは、思ったよりも出しきれなかったと感じたんですね。モニターを見に行って「う~ん、、、」という顔をしていたら、吉田監督に「もう一回やっていいよ」と言っていただき、再チャレンジしました。OKテイクとなった一回は、ナオキのホナミに対しての思いだけでなく、作品に関わってくださったすべての方への思いが溢れたように思います。

というのも、実は天候の関係でラストシーンの撮影が1週間後ろ倒しになったんです。その1週間の間に、事務所のスタッフさんと、改めてラストシーンについてやこの作品について、そして俳優としての今後に関してなどをお話する時間を作っていただきました。
元々自分では、ナオキはナオキだから、ホナミに対しての感情しか入れちゃ駄目だと思っていたんですね。でもその時に「周りへの感謝や思いなども乗せていいんじゃないかな?」というアドバイスをいただいて。

そのアドバイスを踏まえて、観て下さっている方々も、みんな同じ境遇ではありませんが、ナオキを通して色々な感情を届けたいと思い、結果、最後のシーンは、伝えたいことをすべて乗せて演じることが出来たのではないかと思います。

そしてとにかく、制作スタッフの皆さんの、この作品への愛や、出演者さんに対しての愛が溢れている現場でした。ナオキ(直樹)の「不器用だけど、思いやりや愛がある」姿も、作品全体の温かさがあるからこそ、より一層見て下さっている皆さんに届いたのではないでしょうか。

今まで出演させて頂いた作品も、素敵な現場ばかりだったのですが、今回の作品では、ナオキとして過ごした時間が長かったからこそたくさん助けて頂き、その分、より愛情が深い現場となりました。もちろん最初は、撮影中緊張や不安もあったのですが、徐々に「やりたい」「届けたい」という思いがどんどん溢れてきましたね。

――作品や登場人物についてはどう思いますか?

すごく「人間ってあったかいな」と思える作品だと思います。私たちって、意図せず衝突したり、思ってもいないことを言ってしまったりすることもあるじゃないですか。でもそれって、(本人には自覚がなくても)優しさだったり愛だったり、思いやりだったりがあってこその行動で。直樹(ナオキ)や穂波(ホナミ)のような、思いやるが故にすれ違ってしまうキャラクターたちを見て、そんな人間の温かさを感じ取ることができる作品だなと思います。
二人がすれ違っている姿も、視聴者として見ているうちに、「お互いがお互いのことを好きで、想い合っているだけ」ということに気付くとともに、彼らの世界観を見て(優しさ)に気付くような、本当に素敵な作品だと感じました。

客観的に台本を読んでみたり、現場でモニターを見たりしているときも、常に〈一人でも多くの人に届いて欲しい〉と思いながら過ごせたことは、とても有り難い経験だったと思います。
また、直樹と同世代の方々だけでなく、私のような世代も心から共感できる作品なので、是非最後まで観て頂けると嬉しいです。

(カメラマン/丹野 雄二、ヘアメイク/伊藤 絵理、スタイリスト/曽根 菜月)