引っ越し終わって人生が長い/連載:小林私「私事ですが、」

2024/06/15 20:00 配信

音楽 コラム 連載

引っ越し終わって人生が長い/連載:小林私「私事ですが、」※本人制作画像

美大在学中から音楽活動をスタートしたシンガーソングライター・小林私が、彼自身の日常やアート・本のことから短編小説など、さまざまな「私事」をつづります。今回は、引っ越しを通じて感じたことを綴ったエッセイです。
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なんだか久しぶりに原稿を書いている気がする。引っ越しは無事に済み、ネットの開通やエアコンの工事も終わり、今は新居でパソコンに向かっている。

このパソコンを買ったときのローンの支払いを毎度勘で振り込んでいるので、今日も今日とてジャックスから催促の電話が鳴り止まない。支払い能力がないわけではなく、頭からすっぽり抜けてしまうのだ。

以前、ガスの支払いが知らぬ間に滞っていた時、チャイムが鳴って応対したらいの一番に「今からガスを停めます」と宣言されたこともあった。この場で払えますか?と聞いたらOKだったので何とか食い止めることが出来た。

そういえば転入届を出す際、国保の支払いを勘で払っていたため大幅に抜けがあり、発行に手間取った。職員さんにその分の払い込み票って貰えますか?と聞いたら「え、支払う意思あるの?」みたいな顔をして、険しい顔がそれからずっと笑顔だった。本当に申し訳ない、そういう奴もいるんです。

引っ越しとアルバム制作、またMV撮影とか諸々の仕事に伴って、ここ一か月くらいほぼ毎日午前中に起きている。とはいえ11~12時辺りが平均ではあるが、一日がぐっと長くなった気がする。人よりも体感時間が恐らく短いので、過去を思い出すときは少し長めに見積もるのだが、一日が長くなったせいで「大体三日前のことだろう」と思っていたことが昨晩のことだったりする。

朝起きる人達がこの時間感覚で生きていると考えると、確かに気をおかしくしそうだなと思った。

俺はかなりぼんやり生きているし、目標もなく、老いも怖くない。だが引っ越しを主に、例えば各所に連絡をしてガス、水道、電気を開通させたり、エアコン工事を依頼したり、役所に出向いて申請したりと、一歩一歩実存を確かめるように生きてみて、人生の長さを感じる。元々人生って無限だなあと感じて生きてきたのに、その二倍くらい長い感覚になった。

これが良いとか悪いとかは特に思わないが、思考の靄(もや)をそのままにしておくには長いと思うし、そうして視界がクリアになることは一般的には良いことだろう。俺は現実を直視せずに妄想で閉ざしたまま生きていくことそのものには肯定的なので、難しいところだ。

前回の記事をなんとなく見返すと、頑張って内見したりしなかったりしている。この時の俺に、内見しなかった割には悪くないよと伝えたい。駐車場がマジで車幅ギリギリなのも慣れてきたし、ほぼ全ての網戸がガバガバで隙間空きまくりなのも網戸にしなきゃいいから気になるほどじゃない。近所の人間と稀に出くわすと挨拶してくるのもふんわり無視しているから大丈夫。まだ開けてない段ボールが10箱以上あるけど大丈夫。一番狭い部屋でポケモンの解説動画見ながらゲームしているけど大丈夫。

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