――仲村さんが演じる“店主”については情報が少ない状態でした。彼は仲村さんにとってどういう人物だと解釈されて、演技に臨まれたのでしょうか。
実は最初、僕は「もしかしてこの人、 勘違いしたふりをしているだけで、本当は勘違いしてない人なんじゃないか」と思っていたんです。勘違いしてるふりをしてお客さんの悩みだったり、前に進めずに止まっている状態を解決してあげたり、癒してあげたり、背中を押してあげたり…。そのために勘違いしたふりをしているのかなと思っていたんです。
でもかなり早い段階で、プロデューサーや演出の方たちから「違います」「本当に勘違いしてるんです」と(笑)。その答えを聞いたとき、「だったらなおさら自分というものをあまり入れず、監督の考える演出にまっさらな状態で100パー従ってやる」と。“自分なりの隠し味”みたいなものを入れようとしない、と決めたというか…。
――その方がよりキャラクターが引き出せるのでは、という目論見があったのですね。
ある意味、原作に忠実に脚本に忠実に。僕からは「こうしたら…」みたいな提案をしない方がいいだろうと。
――中華料理屋のオヤジとして包丁を構えるシーンがばっちり決まっていました。仲村さんは銃を扱う役が多いイメージがあり、独自の美学があるのではと思っていたのですが、調理器具を使ってかっこよく見せるための努力やこだわりなどはあったのでしょうか。
オープニングタイトルの、包丁を構えるシーンは原作にあるカットで、できることなら完全コピーになるようにと、そういうところはいろいろ意識しました。
クランクイン前に料理学校で、今回の料理監修ご担当の方に“リアルな魚の捌き方”などを教わったりもしました。ただ現場ではやっぱり、リアルを追求するよりも、どうやって卵割るとカッコいいかとか、どうすれば面白くバカバカしくなるかというところを監督やカメラマン、撮影チームで話し合いました。「もうちょっと高いところから(食材を)落とした方が」とか、ハンバーグを中華鍋に入れるときも「フォームが大きい方が面白いんじゃないか」といった提案は、みんなで出し合って撮影しました。
――料理を作ってるシーンは本当にわずかな秒数ですが、カッコいいなと思いました。そうした撮影チームの細部へのこだわりが活きていたんですね。
さっきも話しましたけど、原作では料理のシーンはあえて音の描写をしないのに、音が聞こえて来るような感覚になります。そこがとてつもなくカッコよくて…ドラマは別の手法になるとしても、原作のカッコ良さに追いつきたい、負けたくないという意識は多分(撮影チーム)みんなにあったような気がします。
結果として“やたら高いところから何かをする”所作が多くなっていきました。すだちを絞るシーンも、高めのところから、とそこは提案したものの、監督から「もっと高いところから」という指示が出ました(笑)。
――さまざまな勘違いをする店主ですが、特に印象に残っている勘違いがあればお伺いしてもいいでしょうか。
最初に脚本を読んだとき、「修学旅行生を宇宙人に勘違い」する話に大笑いしたにはしたものの…これって…あり?と。それと樹海のようなところで死のうとしている男を、「世界を股にかける傭兵」と勘違いする」話は、勘違いするにはさすがに無理があるんじゃないか…と思いました。だから「店主」は、勘違いしているふりをしているのか、と。そう考えないとこのふたつの話は成立しないでしょって(笑)。
でも、このふたつの話がとてもヒントになったんです。
最初、宇宙人に勘違いする話を読んだとき、「あ、勘違いしたふりして、自分の居場所が見つからない、友達の中でもクラスでも浮いている存在の少年に『宇宙人なんだから宇宙人でいいんだよ』『僕らは地球人と思ってるけど、宇宙レベルではみんな宇宙人だからな』と彼の存在を肯定してあげる。優しさのある、ほのぼのエピソードなのかな」と思ったわけです。
傭兵に勘違いする話も「あんたは本当はすごい男なんだよ」と勘違いしたふりで声をかけて、生きる力を少しでも与えるみたいな話なのかな…」と思いました。
でも、全然そうではなかったんです。どっちの話の僕の解釈とも「違います」と、スタッフにバッサリやられました(笑)。
――今回の作品では店主の格言風の“名言”が多く出てきます。その名言のなかで、仲村さんに響いた名言はありますか。
いくつかあるんですが、今パッと頭に浮かんだのは「いざ出陣と馬を背負う」ですね。「バカだな」っていう感じが最高です(笑)。すごく慌てているんだなっていう感じが伝わるし、とにかくビジュア
ルが思い浮かびやすくて面白い。
原作には、各話に出てくる「店主の名言」解説ページもあるんですね。そこには本当に存在する格言と勘違いしそうな、もっともらしい解釈やら語源やら用法やらが書いてある。足立先生に「格言や解説、あれ全部フィクションですか」と確認したら、「全部フィクションです。作り物です」と返ってきました(笑)。
――店主の勘違いにより物語が進む同作ですが、仲村さんがポジティブに感じる“勘違い力”や“鈍感力”を教えてください。
たしか上岡龍太郎さんの言葉だったと思うんですけど、何かのインタビューで「人と人とが理解し合うなんていうことは実はほとんどあり得ないことだ」とおっしゃっていたのを読んだんです。
「理解された」と思うのは「相手が自分にとって都合のいい誤解をしてくれている」ということ。そして「自分にとって都合の悪い誤解」をされていると「この人わかってくれてないな」となる。“世の中の人と人との間にある理解とか誤解というのは、ほとんどが相手にとって都合のいい誤解か都合の良くない誤解かのどっちかだ”という…。すごく納得しました。
まだ20代だったと思いますが、インタビューを読んでからは、誰が相手でも(「理解してくれた」ではなく)「都合のいい誤解をしてくれている」と思ったりしていましたし、いまになって少しずつそういう考え方が身に付いてきたかなと思っています。それと鈍感力。鈍感力は自分にとって「生きていく上で重要な力」で、それもかなりついてきたと思いますね。
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