2024/07/25 18:00 配信
コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、うえはらけいたさんがX(旧Twitter)に投稿した『巨大な怪獣とヒーローがいる世界で、平凡な僕が就活をする話』をピックアップ。
作者のうえはらけいたさんが5月3日に本作をX(旧Twitter)に投稿したところ反響を呼び、3.3万以上の「いいね」が寄せられ話題を集めている。この記事では、うえはらけいたさんにインタビューを行い、創作の裏側やこだわりについて語ってもらった。
2010年、舞台は日本とよく似た国。(ただし、巨大な怪獣がいる点を除く)
いつの日からかこの国は巨大生物が出没する危険国家となった。度重なる巨大生物の襲来に対処すべく国は迎撃用となる兵器を開発した。それが戦闘機ミカゲである。
とにかく病気がちで外に出ることもままらなかった僕は、いつの間にか友達に心を開くこともできなくなっていた。「神様から嫌われてるのかな」そんな頃の僕を助けてくれたのは、ミカゲだった。僕の青春時代布団の中で「理想のミカゲの戦闘シナリオ」を空想する時間で占められた。将来の夢はミカゲになること。誰もが無理だと笑ったが、おばあちゃんだけは「末はミカゲ製作所の社員さんかねぇ」と言ってくれた。ミカゲ製作所とは、戦闘ミカゲの開発・運用にはじまり、プロモーションや広報宣伝、様々な企業とのコラボレーションなどミカゲと共存できる世界のために働く企業である。この日から、僕の夢はミカゲ製作所に入ることになった。
ミカゲ製作所に入ってミカゲの仕事ができればきっと生まれ変われる。いくつもの企業の選考に落ちても、僕にはミカゲ製作所がある。いや、ミカゲ製作所しかないのだ。しかし、バイトもすぐクビになる僕なんかがミカゲ製作所のにはいれるのか…。
ミカゲ製作所選考当日。例年、ミカゲ製作所は面接と筆記で行われる。
面接では、「今まであなたが1番になったこと」をテーマに15分間のプレゼンが聞かれた。僕はパニックになってしまった。今までで1番になった経験がない。ただ謝るしかなかった。「1番になったこと一度たりともありません…。1番になったことがないような人生だから…ミカゲみたいなヒーローになりたいってそう思ってこの会社を受けました…」そう答えたが、面接官に「この産業に人並みの人材は必要ない」と言われてしまった。「僕にはミカゲしかないんです…。僕が生まれ変わるにはここしかないんです!」そう叫んだ僕に面接官は「1番になる努力すら怠ってきた君が生まれ変わりたい少々怠慢じゃないか」と言い放った。人生は地続き。明日の君を作るのは今日の君でしかないのだ。
おばあちゃんは怪獣に故郷を踏みにじられていた。「カタキ、取ってくれよ」そう言われていたが、僕は「…無理だよ」と答えた。大体、この怪獣はどこから現れているかも分からない。僕には何もできないのだ。そんな僕におばあちゃんは「マサフミは何にだってなれる」と言ってくれた。そんなおばあちゃんの思いも虚しく、面接で落選を確信した僕だった。
次は筆記試験。課題はあなたの考える「理想のミカゲの戦闘シナリオ」を自由に書いて下さい。(枚数は問いません。)だった。ミカゲ製作所に入りたかったが叶わなかった想いがあふれ、涙が止まらなくなりながら課題に取り組んだ。
すべての選考が終了し、筆記試験の採点が行われていた。多くの受験者が10枚程度書いたのに比べ、僕は128枚書いていたのだった。面接が0点だったため、採点できないと人事の人が話していると、面接官はヨレヨレの解答用紙を見て「…1番、なってんじゃねぇか」と言った。結局信じられるのは熱量くらいなのだ。
神様は僕のことを嫌いじゃなかった。そうミカゲ製作所の内定通知書を見て僕は思った。初配属で僕はグループ企業である”開堂重工業”に出向になった。何をやっているのか分からない会社。何も持っていないが故に何者になることを願って止まない僕の物語。ヒーローになりたいというその願いをこの場所で叶えられるだろうか。制作現場に案内された僕は目を疑った。そこにあったのは巨大な怪獣だった。
何者でもない就活生が夢に向かって前進する本作。衝撃的なラストに「今までで一番うわ!となった」「気持ちよく裏切られた」「これすごい!」といった多くの声が寄せられている。
――『巨大な怪獣とヒーローがいる世界で、平凡な僕が就活する話』を創作したきっかけや理由があればお教えください。
僕はもともと「ゾワワの神様」という、自身がコピーライターとして働いていた時期の実体験を元にした漫画を描いています。
ただ、よりストーリー性が強い長編漫画を改めて描きたい、という思いから、改めて描き始めたのが、読んで頂いた「アバウトアヒーロー」という作品です。
僕が広告代理店・博報堂で働いていた頃、広告はわりと世の中から邪魔者扱いされることが多く(今でもそうですが)「何のためにこれをやっているんだろう?誰が幸せになっているんだろう?」と自問自答する機会が多くありました。
そんな世の中の「悪者」「邪魔者」のような物を、汗水を流しながら作っている自分たちの仕事を、
嫌われ者の怪獣を作る会社に就職する、という設定に落とし込んだのが本作です。
なので、僕が広告会社で働いていた頃の葛藤や悩みが込められた漫画でもあります。
――『巨大な怪獣とヒーローがいる世界で、平凡な僕が就活する話』の中で気に入っているシーンがありましたら、理由と共にお教えください。
1話の回想シーンで、カネコがおばあちゃんに「マサフミは何にだってなれる!」と言われるシーンですね!
このおばあちゃんは僕が大好きだった自身のおばあちゃんをモデルにしているのですが、本当にこんな感じの勢いのある方だったので、その思い出などがつまったシーンです。
―― 本作は多くの方の心に響き、たくさんの反響が寄せられています。うえはらけいたさんが印象に残っているコメントなどありましたら理由と共にお教えください。
実を言うとこの作品は結構前に描いてアップしたものなのですが…未だに「続きまだですか?」「早く描いてください!」というコメントを頂くことがあるので、その度に励まされるとともに、早く描かないとなぁという焦りにもつながっています。
―― 以前のインタビューでうえはらけいたさんは「挑戦する大切さ」を仰っていました。本作でも挑戦する就活生を描いていますが、挑戦する人にアドバイスがあればお願いいたします。
僕が極端に弱気なだけかもしれませんが、挑戦をした直後って常に不安で「本当にこんなことしちゃってよかったのかな…」という疑念にとらわれることが多くあります。
しかし、挑戦したことが間違いでなかった、と証明できるのはこれからの自分の頑張りでしかないと思うので、挑戦することよりも、した後どう生きるか、の方が重要かもしれません。
ただ「世界は挑戦する人に優しい」というのは偉大な世界の真理だと思っているので、進んで挑戦してください!
――うえはらけいたさんの今後の展望や目標をお教えください。
現在、「うぶこへ!」という中編漫画を描いておりまして、まずはこの作品を通じて、人生の素晴らしさ、楽しさを皆さんに伝えたいと思っています。
これが完結し次第、アバウトアヒーローの続きも描こうと思っているので、ご期待ください!
――最後に作品を楽しみにしている読者やファンの方へメッセージをお願いします。
いつも遅筆ですみません…気長にお待ち頂ければ嬉しいです。
そして漫画を読んだり、読んだ漫画が面白かったりしたときは、ぜひ作者にリプでもDMでもメッセージを送ってあげてください!
漫画家が描き続けられるかどうか、って本当に切実に皆さんのメッセージや励まし次第だったりするので…これからもよろしくお願いします!
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