【ホラー漫画】他人の顔が骸骨に見え幻聴が聞こえる…自己肯定感をどんどんはき違えていく漫画に「怖すぎる…」「これはいい風刺」などの声

2024/07/08 08:30 配信

芸能一般 インタビュー コミック

『ぜんぶ肯定してもらう話』が話題(C)岬かいり/小学館

コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、岬かいりさんが描く『ぜんぶ肯定してもらう話』(※『終末の箱庭』16話「礼賛」より)をピックアップ。

岬かいりさんが2024年6月15日にX(旧Twitter)で本作を投稿したところ、746件以上の「いいね」と共に、多くの反響コメントが寄せられた。本記事では、岬かいりさんにインタビューを行い、創作のきっかけや漫画を描く際のこだわりについて語ってもらった。

自己肯定感を履き違えてしまうという生理的な恐怖感

『ぜんぶ肯定してもらう話』(※『終末の箱庭』16話「礼賛」より)(2/39)(C)岬かいり/小学館

主人公は自己肯定感がきわめて低い香奈(かな)。日頃から失敗などをすると、周りの人たちの顔が骸骨のように見え、自分を否定する言葉を言っているような幻聴を聞いてしまうほど。ある日、幼いころから失敗を許さない環境で育った香奈の理解者である幼馴染の彼氏・優次(ゆうじ)から「自己肯定感が低すぎる」と指摘される。

そんな時「自己肯定感UP!礼賛イヤリング直売所直売所」と書かれた看板を出すお店を発見し、購入することに。購入して早速イヤリングを着用した香奈が外に出ると、以前と変わらず知らない人から否定されているように感じる。しかし、すぐにつけていたイヤリングから「いい買い物したね!」「センスある!」など、誉め言葉が聞こえてきた。

その後も不安になるたびにイヤリングが全部肯定してくれるため、気分良く過ごしていたが、ある日電車の優先席をめぐって自分の勘違いまでも肯定されてしまい、間違った行動を取ってしまう。それすらも正しいと思い込む香奈は、人ごみが怖くなくなり前向きに。しかし電波が届かないようなコンサートホールのような場所ではイヤリング機能せずパニックになってしまった。すると優次がイヤリングが通信圏外エリアでは機能しないことを教えてくれ、さらに自分もイヤリングの使用者であることを告白。使っているのは「香奈のせいだよ?」と言い、香奈を責めるような言葉を次々と言う。最後はどんな言葉や行動にも肯定するイヤリングに主人公達以外の人々もおかしくなっていく様子が描かれている。

意味を履き違えてしまった自己肯定感の話に、「一般的に言われる「自己肯定感」って、こんな感じで誤解されてるような気がする」「怖すぎる…叱ってもらえるありがたみ」「世にも奇妙過ぎて…」などの声が寄せられている。

作者・岬かいりさん「視覚的な恐怖より人の内面の怖さを…」

『ぜんぶ肯定してもらう話』(※『終末の箱庭』16話「礼賛」より)(39/39)(C)岬かいり/小学館

――『ぜんぶ肯定してもらう話』は、どのようにして生まれた作品ですか?きっかけや理由などをお教えください。

実生活から生まれました。春頃にマンガワンの謝恩会へお邪魔したのですが、帰り際にクロークの引き換え札をなくしてしまいました。そこで焦りに焦って、同行の担当さんを差し置いて会場内を探し回り、迷惑に迷惑を重ねてしまい…。札も結局見つからず。その後優しく諭されたことも含め「礼賛」の冒頭ほぼそのままです。とにかく反省しました。

そして、翌日に行ったゲーム音楽のコンサート会場にて、ホールを舞台にしようと思い立ち、2部公演の合間の時間に、新宿の隅っこで勢いのままプロットを打ち込んで担当さんに送信しました。気分は立派なノマドワーカー、「仕事ができる風だね!」という幻聴が聞こえるようでした。それが原型です。

――今作を描くうえで、特に心がけているところ、大切にしていることなどをお教えください。

「終末の箱庭」はオムニバスのディストピアホラーなので、社会全体に暗雲が立ちこめている様をどこでかで必ず描写しようと意識しています。

今回なら「礼賛イヤリング」という物が町全体に普及しつつあるところで、最終的にはその需要が成り立つほどの人々の心の空虚感や、その穴を埋めようと本末転倒な手段に走る様など、人の弱さ・怖さにクローズアップしていく…という恐怖心の煽り方が理想です。

――今回の作品のなかで、特に気に入っているシーンやセリフがあれば、理由と共にお教えください。

終盤の「どんな私でもいいって言って たとえどんなにダメでも」「何一つ変われなくても 認めて満たして」のモノローグです。破滅へ向かうシーンで、ある程度共感しやすい心情描写ができると、現実と地続きの恐怖を感じてもらえるかなと思います。もらえたらいいな…

――今作が含まれている『終末の箱庭』に、「今最も生理的な恐怖を味わえるホラー漫画」「嫌な気持ちになれて最高でした!」などの反響が寄せられています。このような反響をどのように感じられていますか?

とても嬉しいです。少女漫画ジャンル出身で、ホラー作品もそちらのものに多く触れてきたからなのか、視覚的な恐怖より、人の内面の怖さ、というのを無意識ながら大事にしている節があります。 そんな中で、「生理的な恐怖」「嫌な気持ちになれる」という感想を頂いたときは。この漫画を真っ正面から言語化してもらえた気がして、この上ない褒め言葉に思いました。ありがとうございます。

――岬かいりさんご自身や作品について、今後の展望・目標をお教えください。

ネームの精度や仕上げる早さをもっと……などなど、挙げればキリがないですが、いま一番思うのは「画力を上げたい」です。「視覚的な恐怖より人の内面の怖さを…」と先に述べましたが、やはり視覚的な恐怖はホラー漫画の一番の売りになると思うので、その場合は画力が物を言います。ビジュアルの魅力を増せるよう、日々いろいろと試行錯誤しております。また、もともとホラー以外も描いていたので、チャンスを頂けた際にはその辺りも再挑戦したいです。

生活面だと、昔からテンションが一定に保てないので、人としての安定感も欲しいです。努力でなんとかなるのだろうか


――最後に、作品を楽しみにしている読者やファンの方へ、メッセージをお願いします。

いつもありがとうございます!

いろいろ拗らせ捻くれ果てたような作者ですが、漫画という媒体や読者の皆様がいてくれることに感謝しながら、用法用量を守って拗らせていこうと思います。これからもお付き合い頂けますと幸いです。