――これまで松竹でおこなっていた業務について教えてください。
岡田雄介:最初の職種は映画の海外セールスでした。世界各国の映画祭から来る上映オファーを検討して、販売が決定したら、上映用のプリントを梱包して海外へ発送するなど、頭と身体の両方を使って働いていた当時の事は今でも印象に残っています。松竹の映画の歴史を海外の方が深く知って下さっていることを知ったのを機に、しっかりと対応出来るよう、自社の作品を勉強するようになりました。その後、国内の無料・有料のテレビ局へ映画をセールスする担当になり、何度か異動を経た後も、同じ仕事に戻りました。その時に各局の編成担当の方とお話したことや、教えて頂いたことが、今の編成の仕事の基礎になっていますね。
今井悠也:最初は史上初の新卒の社内SE(システム・エンジニア)でした。自主で映画や演劇をやっていた文化系青年でしたので、当時は戸惑いましたが、ここで外資系コンサル出身の上司のもとで学んだ論理的思考が、今でも大いに役立っています。続いて、映画グッズの仕事を経て、松竹内外の幅広い作品の映画パンフレットの編集を長くやりました。クリエイティブと予算、スケジュールの全体を設計して、スキルや専門分野を持った様々な方にデザインや原稿、取材を依頼して、監督やキャスト事務所、プロデューサーなど各所との折衝を重ねてモノを作っていく……。大変でしたが、やればやるほどオタクになるとても楽しい仕事でもありました。その後は、松竹映画の配給を担当しました。地方出張も多く、全国の映画館で一人ひとりのお客様に観ていただけることで映画ビジネスが成り立っていることを肌で感じられる仕事でした。観られてなんぼ、という感覚は今も大事にしています。
――今回放送される「ターミネーター2」の注目ポイントはありますか?
岡田雄介:T-800のアーノルド・シュワルツェネッガーのカッコよさは言わずもがなですが、この映画を傑作たらしめているのは、敵の新型ターミネーターT-1000の無表情で無敵なキャラクター造形による、映画全体を支配する圧倒的な緊張感にあると思います。旧式 VS 新型の対決というシチュエーションも秀逸で、結末は分かっていても、逃げる側の恐怖感を一緒に体感し、手に汗を握ってしまうという、最初から最後までハラハラ感が途切れない素晴らしいエンタメ作品です。ぜひ、余すところなくご覧ください。
今井悠也:未来からの使者が、その出自であるはずの未来を変えるために戦う。一見矛盾するようにも思われるこの設定を、運命との格闘劇というエモーショナルな形に落とし込んだ脚本の妙と、物語に説得力を持たせる映像技術の粋。映画の開拓者たるジェームズ・キャメロン監督のパーフェクトすぎる娯楽大作は、いつ観ても、道を切り拓く勇気を与えてくれます。ちなみに私、ターミネーターを修理したことがあります。昔、イベントで使用した実物大の精巧な模型が故障して、目が光らなくて。応急処置で“はんだごて”を奮って、接触不良を直しました。……いろんな仕事を経て、ここにいます!
――BS松竹東急の映画ラインナップは、どのように選んでいるのでしょうか。
岡田雄介:世代の異なる作品が同時代の作品のように手に取れる時代なので、改めて観直した方、初めて観た方の両方が、物語、映像、テーマ、キャラクター、何でもいいので、発見や見ごたえがあるなと思える作品を選ぶようにしています。選択肢が多すぎて観たい作品を選ぶことが難しいと感じる方にとっても、色々な切り口を提示して、作品との偶然の出会いや、新鮮な接点を創出できたらと思っています。一流のDJは曲と曲を繋ぐ際に曲同士の相性の良さだけではなく、曲の背景にある情報・物語も加味して世界観を作っていくと聞いたことがあります。映画の編成でもそこまで深みが出せたら良いですね。精進します!!
今井悠也:当チャンネルの編成に、どことなくクセを感じていただいている方もいらっしゃるかと思いますが、まだまだ試行錯誤中で、「これがウチ流!」と胸を張れるスタイルを確立するには至っておりません。とにかく後発チャンネルですから、単純に視聴率の取れそうな有名作品を並べるだけでは、他局との差別化ができない。映画枠を毎日持っていることを十分に活かして、当チャンネルならではの思いきった特集をしたり、時折、あまり目に触れる機会のない珍しい作品を混ぜたりして、視聴者の方を飽きさせない工夫をするよう努めています。もちろん、マニアックに走りすぎると長続きしませんので、バランスが肝要です。この点は、映画館の方と感覚が通じるものがあるのではないかなと思っています。
――過去に実施して反響の良かった企画はありますか?
岡田雄介:「砂の器」など松本清張原作の作品や「極道の妻たち」シリーズなどは、予想通り反響が大きかった特集です。深夜の放送でしたが、エドワード・ヤン監督の「牯嶺街少年殺人事件」やソフト化されていないロベール・ブレッソン監督の「やさしい女」などは、映画ファンからのリアクションが多かったです。改めて、大衆的な作品から作家性の強い作品まで、バラエティに富んだラインナップを編成をすることで、映画の持つ多様な価値を提供できると信じております。
今井悠也:「牯嶺街少年殺人事件」「やさしい女」は私も思い入れのある作品で、リアクションがあって嬉しかったですね。大きなところでは、昨年末から6カ月連続でほぼ毎週、ジャッキー・チェン主演作品を放送してきました。その棹尾(ちょうび)を飾るプログラムとして、ジャッキーの声でお馴染みの声優・石丸博也さんによる吹替完全版7作品を、権利元の協力をいただきながら企画・初放送しました。テレビで観ることが映画ファンの共通体験だった時代からの、大いなるバトンを未来につなげる意気込みで取り組みましたが、独自性ある試みで視聴者の皆様からも喜びの声を数多く寄せていただいたことは、今後の指針にもしたいと思っています。
――この仕事をしていて、楽しいと感じることはありますか?
岡田雄介:「〇〇を放送してくれてありがとう!」や、「BS松竹東急の映画は面白いセレクションだね!」なんて言ってくださると素直に嬉しいです。よく自局のことを検索するようになりましたね。次はこんな作品を編成しようかなと思っていると、視聴者の方が予測して発信されていて、勝手に想いが通じているな~とニヤニヤしたりします。思い入れのある作品が多いので、個々の作品へのポジティブな発信を見れるのも編成冥利につきますね。
今井悠也:岡田と同じく、視聴者の方からのリアクションはもちろんのことですが、純粋に、つねに数多くの映画に触れられることが楽しいです。過去の仕事は、一定期間ごとに少数の作品とガッツリ対峙することが多かったのですが、今は毎日異なる映画を編成検討する過程で、ものすごい量の情報処理を求められています。先達の築いてきた映画の迷宮は広大で深く、また現在進行形の世の中や映画界の情勢に応じて、過去の作品に対する視聴者の目線も変わりますので、日々勉強しています。
――7月の注力企画とおすすめポイントがあれば教えてください。
岡田雄介:「カリスマ集結!灼熱の音楽映画フェス!」という音楽映画の特集です。映画と同じくらい音楽も好きなので、長らく音楽フェス的な特集をやってみたいと企んでいました。タイミングよく素敵な作品が集まって良かったです。時代も国籍も異なりますが、最高峰のアーティストの楽曲と生きざまから、ものすごいエネルギーをもらえる作品ばかりなので、気軽に観ていただけたらと思います。
今井悠也:7月1日から6日間にわたるブルース・リー特集を予定しています。「ドラゴン危機一発」から始め、クライマックスに「燃えよドラゴン」をご用意しましたので、皆様ぜひテレビの前で一斉に「アタァー!!」と叫んでください!また、橋口亮輔監督の新作「お母さんが一緒」(7月12日公開)の直前に、監督の過去作「ハッシュ!」「恋人たち」を特集放送します。魂を震わせる、本物の映画作家による絶品。無料放送ではなかなか観られないと思いますのでこの機会にぜひ!
――最後に、今後の展望などがあれば教えてください。
岡田雄介:仕事柄、同時代のものと旧作をランダムに観ることが多いのですが、作られた時代を問わず「物語」の種類は無限にあるなと改めて発見がありますね。映画には人生を豊かにするヒントがあると信じています。映画に限らず、当社がお届けする「物語」の数々が、日々の生活に潤いを与えられたらと思っています。今はまだ他の方が作った作品を届ける事の方が多いですが、将来的には当社発の当社にしかできないオリジナル映画を制作できたら最高ですね!!
今井悠也:先の見えない世の中で不安を抱える方も多い現代ですが、物語には「いいことはもちろん、何気ないことも悪いことも、価値あることなのかもしれない」と思わせる力があると思っています。落ち込んだときや迷いに陥ったときに、荒唐無稽なコメディでもシリアスなドラマでも、もしかすると恐ろしいホラーでも、たまたま触れた作品が前に進む励みになったという体験をお持ちの方は多いと思います。これまでのテレビの枠を越えて、メディアとしての社会的位置付けを考えていくことも重要ですが、同時に、個々の視聴者の心に一花添えるという気概も保っていきたいと思います。映画編成を通して培った知見やネットワークを活かしながら、当社オリジナルの映画も作ってみたいですね。
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