“おじさんが目指すべきおじさん”になりつつあるずん・飯尾和樹 冠番組「ずん喫茶」に見る“愛されおじさん”の極意

2024/07/19 08:30 配信

バラエティー コラム

“おじさんが目指すべきおじさん”になりつつあるずん・飯尾和樹(C)BSテレ東

お笑いコンビ・ずん飯尾和樹がMCを務めるバラエティ番組「飯尾和樹ずん喫茶」(毎週土曜夜10:00~、BBSテレ東)が、ついに放送100回を迎える。喫茶店好きで知られる飯尾が、気になる昭和レトロな「ずん喫茶」でおすすめのメニューを食べ、マスターや常連さんとニッコリおしゃべりしつつ喫茶店めぐり旅をする同番組。忙しい現代だからこそ、番組の映す「レトロ感」「人情味」「ゆったりとした時間」がハマるのだろう。しかし最大の魅力は、なんといっても“かわいいおじさん”がもたらす癒し。飯尾の愛され力に着目しながら、「ずん喫茶」の魅力を探っていく。

最大の魅力は温厚でマイペースなキャラクター


ずん喫茶」は、喫茶店をこよなく愛する飯尾が各地の昭和レトロな喫茶店を訪れる番組。飯尾はお店の歴史や雰囲気を堪能しつつ、優しいマスターさんやママさん、常連さんと愉快におしゃべりを楽しむ。そして美味しいコーヒーやおすすめのメニューをいただきながら、独自の目線でその喫茶店ならではの魅力を伝えるのだ。

落ち着きがあり、大人の社交場といった趣もある喫茶店。しかし日本の喫茶店の数は、ここ30年でほぼ半減しているのをご存じだろうか。総務省統計局の情報をもとに全日本コーヒー協会が発表した調査によると、1981年に全国で15万軒を超えた喫茶店の数が、2021年には6万軒を下回っている状態。近年ではおしゃれなコーヒーチェーンなどがもてはやされる反面、純喫茶においては「絶滅危機」と叫ばれている状況にあるのだ。そんな現代において、「ずん喫茶」は昔ながらの喫茶店文化やお店のストーリーを再発信する、貴重な番組といえるだろう。

とはいえ喫茶店といってもお店の規模から看板メニュー、雰囲気もテーマもバラバラ。そんななか、「ずん喫茶」は喫茶店好きである飯尾ならではの観点から“良さ”をピックアップする。たとえばお店がのぼりに掲げる看板メニュー・ナポリタンではなく、飯尾はカレーの匂いに惹かれてインディアンスパゲッティを注文する。「掟破り」と言いつつも「これナポリタン、オムカレーにライバル出現じゃないですか?」と楽しむ飯尾。そんな自由な番組だからこそ、飯尾ののんびりマイペースな人柄がより光って見えるのかもしれない。

飯尾はトークにおいて、多くのお笑い芸人にありがちな「ここが笑いどころ!」という強烈なパンチを打たない。語気を強めず、大げさな身振り手振りをせず、会話のなかでそっと添えるようなボケなのだ。ごく自然体のリラックスしたトークは聞き疲れないラジオのようなトーンで、つらつらと話していく。落ち着いた空間でそこに流れる時間を楽しむ喫茶店のようなボケ、まさに“純喫茶ボケ”ともいえる笑いを添えている。

たとえばお店の方から話を聞くときは、幼少期の思い出や日常の習慣など、誰もが共感できて盛り上がるテーマをチョイス。自分の話も交えながらユーモアたっぷりにオチもつけるが、それで誰かがイヤな思いをしない語り口は徹底している。

勢いのある若手芸人や、貫禄あるベテランタレントとも一線を画する飯尾独特の雰囲気。誰も置き去りにしない優しいトークが、飯尾が“愛されるおじさん”として親しまれる理由なのだ。

“愛されるおじさん”の真髄


「おじさん構文」などを筆頭に、昨今は風当たりが強くなっている「おじさん」という表現。さまざまなレッテルを貼られてしまうことも多い「おじさん」だが、一方で“かわいい”と表現されることも少なくない。好悪を分ける違いは、番組内の飯尾の姿からおぼろげに見えてくる。

飯尾は喫茶店のマスターや従業員、お客さんなど誰に対しても低姿勢。ときにはユーモアを交え、相手を褒めたり立てたりしながらトークを展開していく。その根底にある考えは、過去のインタビューからも見て取れる。自身の強みを聞かれた際、飯尾は「『周りに甘える』『わかったふりはしない』ってことを心がけてます。自分ひとりじゃ何にもできないんだから」と答えている。

年齢を重ねれば、どうしても「理想の自分」を演出したくなるもの。何十年と生きてきたにもかかわらず「できないこと」があるのは恥ずかしい…と考えてしまう人も多い。しかし飯尾は朗らかに自分を表現する。“愛されるおじさん”は相手との年齢や立場に関係なく謙虚さを忘れない心を持ち、そして過度に自分を飾り立てないのだ。

また飯尾といえば、ときおり見せるわんぱくな少年心も魅力の1つ。番組ではメニューを楽しそうに選んだり、看板メニューではなく「今日はアドベンチャーです」と直感的に気になったメニューに挑戦したりといった場面も。スマートに無難に…ではなく、その場の雰囲気と好奇心のまま素直に楽しむ姿が、「かわいい」と思わせる理由なのかもしれない。

関連人物