※ダ・ヴィンチWeb 2024年6月21日配信分の転載記事です。
ゴルフはいかに少ない打数で全18ホールを回れるか、その合計スコアを競うスポーツである。各ホールには「ティーグラウンドからグリーンのカップ(穴)まで◯打でボールを入れる」という規定打数が決まっていて、その通りの打数であれば「0」、それよりも少ない打数だと数字が「マイナス」になり、多く打ってしまうとその分だけ「プラス」されていく。通常は「18ホール合計で72打」が規定打数で、ゴルフ愛好者は72打以下になることを夢見ながら、日々練習し、最新ギアを手に入れようとしているのである。
またゴルフは精神力が要求されるスポーツだ。プレイヤーが「狙ったところへ打てるだろうか」「ボールが曲がって飛んでいかないか」「グリーンの芝のラインの読みは正確なのか」と少しでも不安を抱いたり、力んだり、躊躇をすればたちまちフォームは崩れ、ショットはダフり、ボールはフェアウェイを外れ、池に落ち、バンカーに捕まり、グリーンを外し、カップにはことごとく嫌われる。こうなるともう這い出ることができない蟻地獄状態、何をやっても裏目に出て、その日は地獄のような気分のラウンドになってしまう。
それ以上の無間地獄にハマっているのが『二階堂地獄ゴルフ』の主人公・二階堂進である。プロゴルファーになることを目指して桜武カントリー倶楽部で働きながら練習に励む35歳だ。10年前、25歳だった二階堂はフラリと倶楽部へやって来てキャディーとして働き始めたのだが、まったくのゴルフ未経験だったため、オーナーに勧められスイングしてみたところ天才的なゴルフの能力を発揮。その後は桜武の超新星、ユニコーン、イカロス、ゴルフの申し子、希望、至宝、誉れ……などと持ち上げられ、桜武カントリー所属の初のプロゴルファーという皆の夢と期待を一身に背負うことになる。
ちなみにPGA(日本プロゴルフ協会)の資格認定プロテストには「プレ予選」「1次プロテスト」「2次プロテスト」「最終プロテスト」の4つの段階があり、このすべてを突破した者がプロになれる。二階堂は初年度になんと最終プロテストまで進出したのだが、最後の最後で一打足りずに涙を飲んだ。「この実力があれば」と本人を含め誰もが思ったのだが、ここ一番で勝負に弱い二階堂は毎年一回ある資格認定プロテスト通過になんと10年連続で失敗、今やすっかり桜武カントリーのお荷物となり、崖っぷちに立たされている。なんとかしがみついてはいるものの、行くも地獄(このまま居座り続けるのは針の筵、またそれ以上にプロの世界が厳しいことは言うまでもない)帰るも地獄(ゴルフ場から放り出されたらスキルなしの35歳に再就職は厳しい)状態だ。
ゴルファーとしての才能は間違いなくある。練習や努力もしている。しかしいつもあと少しのところで手が届かない二階堂。しかも5、6年前からはときどき足元に現れては「ニカイドゥ~」と名前を呼びかけてくる黒い影の小人の幻聴・幻影も見えるようになっていよいよ追い詰められ……るのだが、『賭博黙示録カイジ』『アカギ ~闇に降り立った天才~』などを描いてきた福本伸行先生の描く“地獄”がこんな程度で終わるはずがない。この先さらに二階堂を追い込んでいく恐ろしい地獄が待ち受けている。ちなみに連載中の「モーニング」誌上では謎の黒い影の小人の恐ろしさが描かれており、「えええ! “ニカイドゥ~”の呼びかけにはそういう意味が???」と読者に衝撃が走った。単行本で読み進める方は、ぜひその正体を楽しみにしてもらいたい。
合格した人でも生き抜くことが難しいプロの世界、二階堂は果たしてプロゴルファーとして活躍できるのか?……いやそれ以前にプロテストに合格することができるのか? それとも奈落の底まで落ちてしまうのか? 『二階堂地獄ゴルフ』のラウンドは、まだ始まったばかりだ。
文=成田全(ナリタタモツ)