奥野壮“静雄”のかわいらしさに注目 “官能小説の口述代筆”を巡ってこじれる「劇場版ポルノグラファー」の魅力

2024/08/02 18:00 配信

ドラマ 映画 コラム

じれったく切なくなる一方で微笑ましくも思える恋模様

「劇場版ポルノグラファー~プレイバック~」(C)2021松竹株式会社 (C)丸木戸マキ/祥伝社


“官能小説の口述代筆”という設定がとても奇妙でドキドキとさせる本シリーズ。ただ、扇情的で色っぽいシーンも登場するが、少しズレた理生と春彦のやり取りはクスっと笑わせる。一方で、理生の作家人生の苦悩などは辛く心を揺さぶってくるのだ。

理生は年齢的には春彦より年上で、たぶらかすように純粋な春彦を翻弄する存在。しかし、彼をよく知ると、自己肯定感が低く臆病で春彦よりもずっと子どもっぽい人間だということがわかってくる。

続編である劇場版でも、理生は変わらずに繊細で傷つきやすく、春彦と向き合うことができず、家族からも逃げる。そんなときに理生が出会ったのが静雄で、理生はあろうことか静雄に口述代筆をさせてしまう。春彦との大事な思い出である口述代筆を。この静雄を奥野が演じており、春彦が大きくショックを受けることが納得できるほど、静雄は春彦よりもさらに純粋であどけないかわいらしさを持っている。

理生はそんな静雄に口述代筆をさせる軽率さがあるが、そのぐらい春彦を、恋愛そのものを、ひいては自分の人生を春彦は直視できずにいる。そこに彼の本質があって切なく、その危うさが彼の魅力の一つでもある。まっすぐな春彦はまたもや理生に振り回されることとなり、春彦の健気な様子はかわいそうでありつつも愛らしく思えてくる。

しかし、振り回されるのは春彦だけではない。理生もまた春彦のまっすぐさに影響を受けて少しずつ変わっていくのだ。

本作で描かれる2人の恋模様はじれったく切なくなると同時に、なんだかんだと離れられない彼らを見ていると微笑ましくも思えてくる。奥野演じる静雄のかわいらしさに注目しながら、社会の片隅で芽生えた恋にじたばたする彼らが成長していく様子をぜひ見守って欲しい。

構成・文=牧島史佳